『通訳/インタープリター』スキ・キム

通訳/インタープリターいわゆる「ロス疑惑」と呼ばれる事件を巡る報道で私が最も関心をもったのは、「真実は何か」ということではなく、「アジア特捜隊」なる存在だった。専門部署を設けるほど、アメリカにはアジア人(の犯罪)が多いという事実に驚いたのだ。その時はそれ以上深く考えなかったのだが、本書を読んでふっと思い出した。

主人公・スージーは、裁判所の通訳を務める29歳の女性。幼い頃、家族で韓国からアメリカに渡った移民である。
彼女は、自身のことを一・五世と捉えている。韓国で育った一世の両親とも、アメリカ生れの二世とも違う。この一・五世という言葉に、二つの国の間でさまよい、どちらにも属することのできないスージーの苦悩が表れている。

バイリンガルであるということ、多文化であるということは、ひとつの心にふたつの世界をもたらすに違いないが、スージーにとっては、虚ろさが永遠に続くことを意味していた。ひとつの文化を愛するためには、もうひとつの文化も愛する必要があると思われる。文化的な経験をいくら積み上げても、さらなる一体感、帰属感を生み出すことはない。(P.181)

物語は、スージーの恋愛、両親の死の真相、一歳違いの姉・グレースとの確執という三つの話が複雑に絡み合いながら進行していく。
主に描かれるのはスージーだが、強い存在感を放つのは、スージーや周囲の人間の回想の中だけに登場し、最後までひと言も弁明することのなかったグレースである。彼女を追うことで、アメリカにおける移民の実態や、二つの国の狭間で翻弄され、置き去りにされた人々の姿が浮き彫りになってくる。そして、「通訳」というタイトルに込められた意味が、深い悲しみとともにようやく理解できるのだ。

本書は、ミステリーの形式を取っているが、その実は、「自由の国」アメリカの陰の部分を暴いた告発の書である。人々の幸福に資する政治・司法・経済が、自国民(中でも白人)以外には刃となって襲い掛かってくる現状が描かれている。それとも、本書のような作品を出版できるのだから、やはりアメリカは自由で寛容な国なのだろうか。
この構造的暴力とでもいうべき悪によって、移民内部にも歪みが生まれ、スージーたちは「帰属意識」という呪縛でがんじがらめになってしまうのだから、悲劇としか言いようがない。この悲劇の連鎖をどうすれば断ち切ることができるのか。この作品を通して作者の投げかけた問いは、重い。

作者のスキ・キムは、主人公と同じように、13歳のときに移住してきた韓国系アメリカ人である。本書は、彼女の処女作となる。歌詞のような切れ切れの文章や、三人称が突然一人称に変わったり、あちこち話題が飛んだりする構成は非常に読みづらく、小説としては粗さを感じる。
しかし、この作品には、勢いがある。怒りがある。悲しみがある。けっして声高に叫んでいるわけではないのに、作者の熱い思いが行間からじわじわと染み出てくる。ラストの一文に、痛烈な皮肉を感じずにはいられないのだ。[Amazon]

アメリカ(韓国出身):國重純二・翻訳

The Interpreter
Suki Kim
The Interpreter

  1. 同時期に読んでいたんですね。
    私は重くて挫折したんですが….ぐらさんの視点にたってもう少し読んでみようと思います。
    ありがとうございました。

    • ぐら
    • 2008年 3月22日 9:21pm

    わたしの視点は結構いい加減なのですが・・・。
    でも、前半はともかく、最後は本当によかったです。
    グレースの気持ちを思うと、切なくて切なくて。

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