『ジェイン・エア(上・下)』シャーロット・ブロンテ

オースティンの『高慢と偏見』が少女マンガだとすれば、この『ジェイン・エア』はさしずめメロドラマといったところだろうか。
孤児になった少女は、引き取られた伯母の家で冷たい仕打ちを受け、寄宿学校に厄介払いされる。やがて成長し、家庭教師として赴いた屋敷の主人と恋に落ちるが、次々と苦難が襲い掛かってくる。
あらすじをみると、実に波乱万丈な物語である。このいかにも少女趣味的な内容が嫌でこれまで手が伸びなかった。実際読んでみると、ジェインとロチェスターとの甘い会話には辟易した。悲しいかな、恋人同士のじゃれ合いは、当人たちが真剣であるほど周囲は滑稽に感じるものなのだ。
少女時代なら胸躍らして読んだかもしれないが、ご都合主義的な展開や、二人が唐突に恋に落ちる不自然さ、ジェインほどロチェスターを魅力的に感じられないという温度差もあって、それほどおもしろいとは思えなかった。
しかし、ジェイン・エアというひとりの女性に注目すると、素晴らしい作品なのだ。
ここが、メロドラマやロマンス小説とは一線を画している。ブロンテがこの作品で描いたのは、シンデレラでも、苦難に堪え忍ぶ女性でもなく、「自立した女性」という、より能動的で強い女性像である。この作品が1847年に書かれたことを考えると、彼女の先進的な考え方に驚かされる。
強い女性といえば、ロチェスターの婚約者と目されたブランシュにも当てはまるのかもしれない。ただ彼女の場合、地位や財産や美貌に裏打ちされた自信だ。天涯孤独の身で、わずかなお金しか持たず、容貌にも恵まれていないジェインが、自らの力で運命を切り開いていく強い生き方とは決定的に異なるのだ。
ジェインの凄さは、誰にもすがらず常に自分の足で立とうとするところにある。
作中、彼女が大きな決断を迫られる場面が二回あり(読んでいて思わず力の入ってしまうおもしろい場面なのだ)、そのどちらも一歩も引くことはなかった。ここに、相手と対等であろうとするジェインの強い信念を感じずにはいられない。
それにしても、なんてパワフルな作品だろう。一人称で語られる物語は、読み手まで引きずり込むような、力強さがある。生き生きとした躍動感にあふれている。
「はい、わたくしはいまでは自立した女です」との言葉に、ジェインの万感の思いが込められているのではないだろうか。[Amazon]
イギリス:小尾芙佐・翻訳
Jane Eyre
Charlotte Bronte





コメントはまだありません。