『ハーケンと夏みかん』椎名誠

ハーケンと夏みかん (集英社文庫)『くだものだもの』というアンソロジーの中で強烈に印象に残ったのが、椎名誠さんの「ハーケンと夏みかん」だった。
いつか元本を読みたいと思っていたところ、古本屋で見つけたので購入。私が買ったのは山と渓谷社から出版されたハードカバーだが、集英社文庫としても出ているので、そちらの方がリーズナブルである。

くだものだもの本書には、表題作を含めて山登りにまつわる11のエッセーが収められている。
一度読んだにもかかわらず、「ハーケンと夏みかん」には、また笑ってしまった。これは、ほんとうに傑作である。
椎名誠さんの本を読んだことがある人なら、「沢野ひとし」という名前にピンとくるはず。ただ、二人が仕事上の付き合いだけでなく、高校時代からの親友とは知らなかった。

「ハーケンと夏みかん」では、高校生の二人が無謀にもロック・クライミングに挑戦し、早々に挫折するエピソードが、ほどよく力の抜けた筆致で綴られている。大口を叩く沢野さんと、少し不信感をもって見守る椎名さんの対比が、たまらなくおもしろいのだ。
ところで各エッセーは、沢野ひとしさんの手による2枚の挿絵つきである。彼が何を思いながら自分の姿を描いたのか、想像するだけで笑える。
他に、突然殿様口調になる「沢野バカ殿様白神のボコボコ山を行く」や、カヌーで人の失敗を笑う「四万十川がぶのみ旅」など、沢野さんの登場するエピソードはどれも笑いを誘う。

本書は、飄々とした語り口でユーモラスに描きながら、山への愛情にあふれた一冊である。
がむしゃらに頂上を目指すだけが、山登りではない。仲間とへべれけになるまでお酒を飲み、ご飯を食べ、火を囲んでとりとめのない話をする。時には周りの景色を眺め、自然の美しさに感動する。そんな楽しみ方もあるんだよ、という声が聞こえてくるようだ。アウトドア派ではない私でも、本書を読むと山登りをしたくなってくるから不思議である。[Amazon]

  1. コメントはまだありません。

  1. トラックバックはまだありません。