『〈眠り病〉は眠らない―日本発!アフリカを救う新薬』山内一也・北潔
普通の人より睡眠時間が多い方だと思うが、それでも毎日異常に眠い。心ゆくまで眠れたらどんなに幸せだろう。
ところが、眠り続けて最後には死亡するという、ギクリとするような病気があるのだという。その名も、「睡眠病」。本書は、睡眠病研究の歴史と現状を紹介した一冊である。
日本での「睡眠病」の認知度はどれぐらいのものなのだろうか。浅薄な私は、本書を読むまでその言葉を見聞きしたことすらなかった。
しかし、アフリカではエイズ以上の深刻な被害をもたらしており、歴史を紐解けば、細菌学の父・コッホや、シュバイツァー、志賀潔といった名だたる研究者たちがその治療に心血を注いできた難病というから驚く。
しかも、である。1960年代のアフリカ諸国の独立・その後の不安定な政情にともなって長らく見捨てられていた睡眠病治療薬の開発が、ここ日本で進められているのだから、さらに驚く。効果的で副作用のない純国産新薬の誕生に、世界からも期待が集まっているのだ。著者の北教授は研究の第一人者なので、睡眠病治療の最前線を窺い知ることのできる一冊といえるだろう。
睡眠病はツェツェバエを媒介とする寄生虫感染症で、もともと風土病として限局的に発生していたもの。それがこんにちに至る甚大な被害をもたらすことになったのは、19世紀終わりの植民地化にともない人や家畜の移動が盛んに行われた結果、病気が周辺地域へ加速度的に広がっていったからである。
グローバル化は人や物のスムーズな移動をもたらすと同時に、病気の進入・拡大も許してしまう。もしかすると、現代における一番の脅威はウイルスなのかもしれない。
前述したように本書は、睡眠病治療について書かれている。とはいえ、話題は医科学の分野に留まらず、発展途上国への治療薬開発の困難性、アフリカの貧困、グローバリゼーションの功罪などにも広く言及している。つまり「睡眠病」という病から、現在の世界が抱えているさまざまな問題が見えてくるのである。
なかでも、「見捨てられた病気」の問題が深刻である。これは、患者が多いにもかかわらず、彼らに購買力のないために治療薬の研究開発がほとんど行われていない病気のことをいう。発展途上国の多くの人々が切り捨てられている現状に愕然とした。これが先進国で発生した病気なら、真剣に取り組むのだろうか。
安価なエイズ治療薬提供もそうだが、人間の生命にかかわる問題は、世界規模で考える必要があるのではないか。これはどこか遠い場所の、自分と無関係な話ではない。
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