『ミシシッピがくれたもの』リチャード・ペック

ミシシッピがくれたもの (創元ブックランド)アメリカ人にとって、南北戦争は核になっていると思う(実際に尋ねたことはないが)。
南北戦争によっていまのアメリカが形作られ、戦争のずっと後に産まれた世代の体を流れる血にも、当時の記憶のようなものが脈々と受け継がれているのではないか。
牧歌的でユーモア溢れる『シカゴよりこわい町』『シカゴより好きな町』から一転して、『ミシシッピがくれたもの』は、歴史の重みと人々の悲しみの深さを感じられる作品である。

物語は、1916年と1861年という二つの時代を行き来して展開される。
語り手の15歳の少年は、生まれて初めて父の故郷を訪ねることに。遠出の外出に喜ぶ彼を待っていたのは、長い年月と謎めいたものを感じさせる年老いた祖父母・大おば・大おじだった。祖母のティリーが、少年に語って聴かせる南北戦争時の物語が本書のメインである。

ここでは、ミシシッピ川を見下ろす丘で慎ましく暮らすティリー一家よりも、ニューオリンズから川をさかのぼってやって来たデルフィーンとカリンダという二人の少女たちの方に光が当てられている。とりわけ、美しく着飾って自信に満ち溢れたデルフィーンは、強烈な印象を残す。
戦争が起こらなければ、さほど裕福でないイリノイ州の娘と南部のお嬢様が出会うことはなかっただろう。彼女たちは歴史のいたずらで引き合わされ、やがて固い絆で結ばれるようになっていく。物語が進むにつれて、戦争の悲惨さ・人種差別の根深さといった、アメリカの負の歴史が浮き彫りになってくるのである。

この作品は、微妙なバランスの上に成り立っている。
国が南北に分かれて争い、同じ州内でもふたつの勢力が拮抗している政情の不安定さ、南部から来た人間を受け入れるティリー一家の町での立場など・・・。そして常に微妙なバランスを抱えているのが、デルフィーンである。最初は世間知らずのお嬢様にしか見えなかったが、彼女が身を置く厳しい現実や芯の強さに気づいたとき、ぐっと胸が詰まった。
『トム・ソーヤーの冒険』ではのどかな情景が描かれるが、ミシシッピ川には一体どれほどの血が注がれたのだろうか。川はなにも語らず、昔も今も変わらず、ただそこにある。
最後のページでは、積み重ねられた時の重みと、絶えることなく続いている人の営みに圧倒されることだろう。[Amazon]

アメリカ:斎藤倫子・翻訳

The River Between Us
Richard Peck
The River Between Us

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