『世界がキューバ医療を手本にするわけ』吉田太郎

世界がキューバ医療を手本にするわけ

Amazonで購入
書評/ルポルタージュ

お金と幸福が必ずしもイコールとならないことの好例が、キューバにある。
バレーボールで青春時代を過ごした私は、ワールドカップバレーの時ぐらいしかキューバに注目したことがない。経済水準の低い国ということで、あまり興味がなかったのが正直なところなのだ。アメリカに気兼ねしてか、日本ではキューバの情報が充分に伝えられていないことも大きいと思う。

ところが、本書を読んで驚いた。お世辞にも経済的に恵まれているとはいえないキューバが、先進国に引けを取らない福祉医療社会を築きあげているのである。
乳幼児死亡率はアメリカ以下。平均寿命は先進国並。がん治療から心臓移植まで医療費はタダ。過疎の農村地域まで隅々に張り巡らされた予防医療システム。高度な医療技術と、画期的な医薬品開発。世界各地から視察が訪れ、国連もこの福祉モデルに活路を見出しているほどなのだ。

一体、キューバで何が行われているのか。そしてどうやって、世界に誇る高水準の医療制度を維持しているのだろうか。
キューバはその社会主義的性格と地理状況から、常にアメリカと緊張状態にあって苦難を強いられてきた国である。なかでも、経済封鎖とソ連崩壊は深刻なモノ不足をもたらした。しかし、このピンチをチャンスにしてキューバの医療制度は発達していくのだから凄い。
年金問題・後期高齢者医療制度問題に揺れ、妊婦が病院をたらい回しにされている日本の医療の現状を省みると、本書のレポートはにわかに信じ難いものがある。最も温度差を感じるのが、法制度などのハード面よりも、ソフトパワー、つまりその医療制度を支える人々の志の違いである。医師は特権階級ではなく、病で苦しむ患者を助ける奉仕者、という博愛精神が自然とひとりひとりの心に根づいているのだ。

キューバの優れた医療制度を取り上げた本書は同時に、グローバリズムや市場経済の負の側面を浮き彫りにする。
『ルポ貧困大国アメリカ』という新書が話題になったが、格差が広がり心の荒廃が進むなど、世界各地で生じた歪を多くの人が漠然と感じているように思う。そんな現代社会の抱えるさまざまな問題を打開する鍵は、もしかするとキューバにあるのかもしれない。
もちろん、キューバ特有の事情によって実現できた部分はあるだろうが、若者の熱と力に国の未来を托し、次々と手を打っていったカストロの先見性には頭が下がる。最後に彼の言葉を引用したい。

「教育こそがすべてだ。教育は価値観という種を蒔き、それが倫理観を育み、人の生きざまを成長させる。教育は魂の良きものを求め、その陶治こそが、利己主義に向かう本能やなくさなければならない態度と戦う力となる」(P.224)

[Amazon]

本書は、本が好き!経由で献本していただきました。

  1. コメントはまだありません。

  1. トラックバックはまだありません。