『闇の中の系図』半村良

闇の中の系図 (河出文庫)世の中には、さまざまな才能がある。絵を描くのが抜群にうまい、歌唱力がある、並はずれた運動能力を持っている等・・・。
さてここに、ある才能に恵まれた男がいる。主人公・浅辺宏一は、嘘をつかずにはいられない。しかも、その嘘が天才的にうまいのである。しかし、胸を張って人に自慢できない才能を彼はもてあます。どれだけ巧みに周囲を騙せたとしても、それが嘘だと一番よく分かっているのは自分自身なのだから。
悲しい性にとらわれた男の転落物語なのかと思いきや、その能力を必要とする組織の登場で、一気にスリリングな展開になっていく。

半村良の『石の血脈』を読もうと思っていたのだが、なぜか本書を先に手に取ってしまった。どうも、陰謀とか歴史ミステリーといったものに弱い。
『闇の中の系図』は、30年ほど前に発表された作品で、今回河出書房から新装版として出された。復刊されるほど人気があったのだろうか。ちなみに、この作品は『闇の中の黄金』『闇の中の哄笑』とともに、〈嘘部〉三部作をなしている。
キャラクター設定は突飛なものだが、主人公の「嘘講釈」とでもいうべき持論には不思議と説得力があって、なかなか興味深いものがある。

ホロリ、と何気なくこぼれ落とす感じで、宏一は少しずつ自分の身の上を飾って行った。嘘の部分を控え目に控え目に誇張して行ったのである。と言って、積極的な嘘は一度もついていない。ただ、想像する方向を少しばかり誘導し、それで相手が納得して自分勝手な結論を打ち出すと、謙虚に否定するふりをしてその架空のイメージを定着させてしまうのだ。(P.42)

古代史と絡めて政治経済を陰で操る組織を描き出す本書は、エンターテイメントとしてとてもおもしろい。主人公が仕掛ける一大嘘芝居は、高木彬光『白昼の死角』の手形詐欺場面を彷彿とさせる。
ただ、フィクションとはいえ、目的のためには嘘を含め手段を選ばない登場人物たちのためらいのなさには、嫌なものを感じてしまった。これではテロリストと一緒である。彼らの主張には共感できる部分もあるが、その行為の正当性を誰が判断し、誰が歯止めをかけるのだろうか。
多分私が引っかかるのは、自分たちが世の中を動かしている、との使命感に潜む傲慢さなのだと思う。[Amazon]

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