『贖罪(上・下)』イアン・マキューアン

小説の限界と可能性を、同時に提示してみせたような作品である。イアン・マキューアンの作品を読むのは本作が初めてなのだが、傑作の名に恥じぬ小説。今度、彼の他の作品も手に取ってみよう。
主人公は、地方旧家の末娘・ブライオニー。
空想家の13歳の少女は、帰省する兄のために自作の劇を上演しようと張り切っていた。“役者”のいとこたちが思い通りに動いてくれないストレスの中、ある光景を目撃。少女ゆえの無知と空想と潔癖に突き動かされてブライオニーが作ったひとつの物語が、思いもよらぬ事件へと発展し、人々の運命を大きく変えることに。
物語は1935年の出来事を描いた第一部から始まり、第二次大戦時のフランス戦線を描いた第二部、見習い看護婦となったブライオニーの独白で綴る第三部を経て、1999年のロンドンで幕を閉じる。
上巻まるごと費やされる第一部は、主人公のブライオニーはじめ、姉セシーリア、母エミリー、使用人の息子ダニーなど、タリス邸に居合わせたさまざまな人間の視点から描かれていく。時間にすればほんの数日(2日かな)のことなのに、これがじれったいぐらい遅々として進まない。登場人物の意識の流れが巧みに表現されており、いつまでも浸っていたくなるような文章なのだ。ここで時間を取られる読者は、少なくないだろう(多分)。
はっきり言って「衝撃の結末」というほどでもないが、最も短い最終章に込められた思いには考えさせられる。仮にこの作品が第三部で終わっていたら「タイトルに偽りあり」と納得いかなかったと思う。
犯した過ちを償うというのは、その罪が深ければ深いほど、人に与えたダメージが大きければ大きいほど、容易なことではないはず。「許してほしいなんて思わない」という言葉には、相手の許しを請う気持ちが見え隠れするのだが、この『贖罪』は、相手云々ではなく自分は何をするべきか、ということを突き詰めた、潔さのようなものを感じる。ブライオニーが60年近くもの年月を費やしたことは、けっして長すぎはしないのだ。
ブライオニーは彼女なりのやり方で、落とし前をつけた。許しを得る得ないにかかわらず。かつて物語に全幅の信頼を寄せていた少女は、成長してその限界を知る。それでも物語を紡ぐことをやめなかったのは、物語でしか描けない「真実」があるからではないだろうか。
小説然とした第一部と作品の主題を示した最終章に挟まれて地味だが、第二次大戦時を描いた第二・三部もまた、ヘミングウェイの『武器よさらば』を彷彿とさせ、読み応えがある。事実だけでは得られない戦争の悲惨さや、運命に弄ばれた恋人たちの哀切が胸を打つ。[Amazon]
イギリス:小山太一・翻訳
Atonement
Ian McEwan


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こんにちは。
第1部はそれだけで1つの作品にしてしまっても
良いくらいに読み応えがありますよね。
第1部を読み終えただけでも結構な充実感がありますが、
ラストを迎えた後に、ガラリと世界観が変わるのが
またなんとも言えず、大好きな作品です。
映画版、僕も観よう観ようと思っているうちに
公開時期が過ぎてしまったので、
DVD化されるのが楽しみです。
そもそもの第1部の映像化も表面的なものにしか
ならないのではないかと危惧されるのですが、
ラストをどのように描くのかが楽しみですよね。
「贖罪」 イアン・マキューアン
贖罪(atonement) イアン・マキューアン Ian McEwan 新潮文庫 2008.03 今週末に公開されるキーラ・ナイトレイ主演の映画「つぐない」の原作でもあるイアン・マキューアンの作品。マキューアン作品はこれまでハズレなしでどれも面白かったので、最高傑作との呼び声も高い、…
>第1部を読み終えただけでも結構な充実感がありますが、
ラストを迎えた後に、ガラリと世界観が変わる
そうなんですよね!
同じ文章なのに、違った景色みたいで新鮮です。
映画、どうなんでしょう。
そもそもこの作品、映像化には不向きなような・・・。
でも、噴水の前で花瓶を取り合うシーンは映像で観てみたいなぁ、と思います。
こんばんは。
「贖罪」は、最後にきれいにひっくり返されて、「あ、そうきたか」と思った本でした。
題名がなんだかごついので、最初は「アムステルダム」から入ったのですが、こっちの方がスケールも構成もけた違いに良かったです。
「小説の限界」、そうですよね。
この本はどこまでも「小説」だと思うので、映画にしてしまうとわかりづらいような気もするのですが、映像は映像で、別の意味で楽しみだったりもします。
コメントありがとうございます。
わたしも題名で躊躇したクチです。
しゃれで書いた「アムステルダム」がブッカー賞を取っちゃうなんて、本人が一番びっくりしているのかも。
小説ならでは、というのが分かっていても、映像も捨てがたいですよね。
ネットのレビューでは評判いいみたいなので、ひそかに期待してます。
私は「アムステルダム」が全くダメだった(というかムカついて読み終わると同時に床に投げつけて、すぐ古本屋に売っぱらった)ので、この「贖罪」、評判はいいのだけどまだ手にとる勇気が湧きません。「アムステルダム」はダメでもこれはいいと言う人も多いようなのですが…
つまらない作品を読まされた恨みはそう簡単には消えません。
すごくよく分かります、その気持ち。
最初に何を読むかで、その作者の印象違ってしまいますよね。
「贖罪」は、小説好きな人、小説をたくさん読んできた人こそ、感じるものが多い作品だと思います。
図書館で借りるという手もありますよ。
ダメだったときでも、少しは納得できるかも。
『贖罪』イアン・マキューアン
[作家の犯す罪とつぐないの方法]
物語をつむぐ作家の罪と、つぐないの話。
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