『封印の島(上・下)』ヴィクトリア・ヒスロップ

舞台は、ギリシャ・クレタ島北方沖のスピナロンガ島。
ここは、1903年から約半世紀にわたりハンセン病患者のためのコロニーだった。つまり、他の人に感染しないよう強制的に患者を隔離(という名の排除)していたのだ。こんな非人道的なことが堂々と行われていたというから驚く。もっとも、日本も褒められたものではないが。
本書は史実を踏まえ、ギリシャにおけるハンセン病の歴史と、ある一族の歩みを巧みに織り合わせながら物語を紡いでいく。
プラカ村からスピナロンガ島へ小舟で運ばれる患者たち。それは、けっして戻ることのない片道だけの旅だった。愛する家族や友だち、今までの生活と別れて終の棲家に向かう人たちの心中はいかばかりのものだったろう。
患者は病だけでなく、周囲の偏見とも向き合わなければならない。むしろ、後者の方がやっかいで根が深い。プラカ村とスピナロンガ島は目と鼻の先なのに、人々の心の距離は果てしなく遠いのだ。本書には、根も葉もない噂をきっかけにあわや暴徒が島に上陸しそうになるなど、無知による偏見に曝された患者の姿が描かれる。
それでも、この作品がすがすがしさを残すのは、コロニーの住人たちが前向きに生きているからではないだろうか。意外なことに、スピナロンガ島は閉鎖的で諦念に満ちた牢獄ではなかった。粘り強く政府と交渉を重ねる島の代表。住宅の増設や発電所の設置。軒を連ねる店舗。娯楽で心のうるおいを取り戻す人々。ここは、ひとつの町だったのだ。島で治療にあたる医師の言葉が印象的。
孤島の性格の多くを留めているのは、プラカ村なのだ。狭量で、ひとりよがりで、外界にたいして心を閉ざしているのはスピナロンガ島ではない。スピナロンガ島は生気と活力にあふれている。(P.354)
たしかに、患者たちは切り捨てられ、傷つけられた。けれど人間には、どんな暴力にも屈することのないたくましさが具わっているのではないか。コロニーの住人たちの姿を見て、そんなことを思った。
スピナロンガ島の歴史が人間の尊厳を描く一方、より具体的な家族愛を描いたのが四世代にわたる一族の歴史である。中心となるのが、二人の女性だ。派手好きで野心家の姉アンナと、心優しく純粋な妹エレナ。性格のまるで異なる二人の姉妹が、それぞれ数奇な運命を辿っていく。
恋愛小説としては古典的ではあるが、ドラマティックな展開に思わず引き込まれてしまう。訳文もこなれていて、とても読みやすい。ただ、作者のアンナに対する扱いはひどすぎるような・・・。
これは、女たちの物語である。だが、その女たちを静かに支え見守り続けるゲオルギウーの視点に立って読み直すと、物語はまた新たな表情を見せる。妻と娘がハンセン病に罹病。男手一つで子どもたちを育てながら、自らは小舟を操り島民の日用品を配達する。そこには、控え目ながらも信念をもって生きる一人の男の姿が浮かび上がってくるのである。
『封印の島』は、ヴィクトリア・ヒスロップの処女作ながら、世界20数カ国に翻訳され、高い評価を得ている。傑作とまではいえないが、歴史の重みと人と人との繋がりを、強く、深く感じさせてくれる一冊である。[Amazon]
イギリス:中村妙子・翻訳
The Island
Victoria Hislop




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