『秋瑾 火焔の女』山崎厚

秋瑾 火焔の女(ひと)幕末時代、日本の将来を憂えた志士たちに危機感としてあったのが、中国(当時の清)の姿である。
アヘン戦争敗北後の中国は、西欧列強諸国に食いものにされ混沌としていた。西洋人が我が物顔で振る舞う一方、中国人たちは塗炭の苦しみを舐めていたのだ。
そんな屈辱的な祖国を見かねた人間が続々と立ち上がり、清朝崩壊・近代中国の誕生を成し遂げていく。その革命に殉じた者の中に、燦然と輝く女性闘士がいた。本書は、“中国革命のジャンヌ・ダルク”と称された秋瑾(しゅうきん)の生涯を描いた一冊である。

日本では孫文ほど有名ではないが、魯迅の小説のモデルにもなった女性である。
地方官吏の家に生まれた秋瑾は、自作の漢詩を詠み、乗馬と剣舞を得意とする聡明で活発な女性。富豪の家に嫁いで二人の子をもうけた後、女子教育を学ぶため日本へ留学。やがて、真の女性解放は国家の変革なくしてありえないとの考えに至り、革命運動に身を投じていくことになる。
情熱的な女性である。こうと決めたら躊躇うことなくまっすぐ突き進む、決意の人でもある。恵まれた生活を捨て去る潔さ、信念を貫く意志の強さに、ぴんと背筋が伸びる心地がする。背にモーゼル銃、懐に短剣、右手に筆、左手に手綱といったいでたちからして勇ましい。演説をすれば火を噴くような激しさで場内を圧倒し、留学生仲間からは頼りになる存在として慕われた。
秋瑾は激動の時代を一気に駆け抜けるかのように、33年の短い生涯を閉じる。だが、彼女の情熱の炎は消えることなく、後の辛亥革命の原動力となっていくのである。

本書は、秋瑾の凛とした生き方を伝えんとする著者の意気込みを強く感じる一冊である。中国近代史を彩る革命家たちの姿も活写されており、命を賭して闘う人間の崇高さが胸を打つ。ただ、多分に脚色がかっているので、評伝というより小説に近い。その意味では、少し肩すかしを食らった感がある。
また、家庭人としての秋瑾を伝えるのが本書の真意でないとはいえ、母として、妻として見た彼女をもう少し掘り下げて描いてほしかった。彼女の子どもたちは、母親に対してどんな思いを抱いていたのだろうか。革命家の両親の背中を見て育った少年が成長して日中友好協会の会長になったことを紹介しているように、秋瑾の遺児らがどのような人生を送ったのかについても、簡単に触れてあればよかったと思う。[Amazon]

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