『ラン』森絵都

ラン直木賞を受賞して確固たる地位を築いた森絵都だが、やはりヤングアダルト作品を書かせたらうまい。『カラフル』で感動した読者なら、「待ってました!」と叫びたくなるような一冊である。
本書は、『カラフル』『DIVE!!』の合わせ技のような作品で、ゴースト風味のスポ根物語といったところ。悩みも苦しみもない死者の世界を描きつつも、軸足は汚濁に満ちた現実世界にある。ファンタジックな設定ではあるが、中身はマラソン仲間との交流を通して人生に前向きになっていく主人公を描いた、至極まっとうな物語なのである。
近年、スポーツを題材にしたYAが豊作である。なかでも、佐藤多佳子『一瞬の風になれ』や、三浦しをん『風が強く吹いている』といった、陸上に青春をかける若者を描いた作品が熱い。『ラン』もその系統に列なるものといえるだろう。ただし、一風変わったスポーツ小説ではあるが。

スポーツといえば、爽やかで、健康的で、明るいイメージが強い。ところが、主人公の環は根性もなく、協調性もない。なにしろ、「死んだ家族と会いたい」という走る目的からして、悲しいぐらい後ろ向きだ。彼女の心を占めているのは、絶望的な孤独である。周囲と距離を置き、突っ張って生きる様は、必死で自分を守っている現れなのだろう。
そんなおよそスポーツとは縁のない人間が、ランニングを始め、他人と深く関わるようになっていく。普通なら、努力すれば結果が伴うものだが、彼女の場合、走れば走るほど、本来の目的からどんどん遠ざかっていくのが皮肉である。しかしそれは、寂しいが、悪いことではない。
ここで描かれているのほほんとした死者の世界は美しいが、これほど味気ないものもない。苦しみや悲しみが深いほど、得られる喜びもまた大きいものなのではないだろうか。煩悩に満ち、投げ出したくなるようなこの世にこそ、たしかな幸せがあるのだと思う。
本書は、一歩前へ踏み出す勇気をくれる、すがすがしい一冊である。

ただ難を言えば、<ドコロさん>がチームを作った理由が弱い。なぜ陸上に素人の人間ばかりを好んで集めたのか。そのあたりの説明が曖昧なので、多彩なキャラクターが少々わざとらしい。
この作品は、長距離走と死後の世界を組み合わせたのが新鮮でおもしろいところなのだが、逆に「この世」と「あの世」の二つの世界を行き来するために、スポーツ小説としては薄味になっているのが惜しまれる。いろいろ盛り込んで書くのは難しいんだろうなぁ。[Amazon]

陸上競技を描いたYAいろいろ
(まだあると思いますが)
一瞬の風になれ(全3巻)
佐藤多佳子
一瞬の風になれ 第一部  --イチニツイテ--

風が強く吹いている
三浦しをん
風が強く吹いている

ランナー
あさの あつこ
ランナー

800
川島誠
800 (角川文庫)

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  1. ぐらさん、こんにちは。
    陸上ものでは、「一瞬の風になれ」と「風が強く吹いている」を読みました。
    私も、最近ランニングをはじめたのですが、
    (まだ、2~3キロくらいでへばりますが・・・)
    すごく、楽しいですよ。
    孤独をかかえてひたすら走るのは、どんな気持ちなのでしょう。
    たしかに、レースは相当孤独でしょうね。
    中長距離のレースになると、見えないところで
    腕を引っ張りあったり、ポケットして足を引っ掛けたり、
    かかとをふんずけたり、そんなことがしょっちゅうあるそうです。(ちょっと、違うけどね。)
    なんだか、一風変わった陸上小説のようですね。
    ふふふ・・、気になるので読みたいリストに追加です。

    • ぐら
    • 2008年 8月6日 10:31pm

    ランニングされてるんですか~。
    す、すごい。
    やっぱり息子さんの影響でしょうか?
    わたしが今走ったら、多分5分でへたってしまうと思います。
    でもこういう小説読んだ後って、気持ちだけは高ぶってしまうんですよね…。
    なので、オリンピック・イヤーは、異常に燃えます。

  2. ラン 森絵都

    ラン(2008/06/19)森 絵都商品詳細を見る
    ブックデザインは池田進吾(67)。書き下ろし。ネタバレありです。
    22歳の夏目環は両親と弟、叔母を…

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