『ヴィヴァーチェ 紅色のエイ』あさのあつこ

ヴィヴァーチェ  紅色のエイ (銀のさじ)・・・続くのか!
ほとんど予備知識のないまま読み始めたので、本編と関係のないところでびっくりしてしまった。それにしても、一体何巻で完結するのだろう。

舞台は、近未来の地球。
国王を頂点とした階級制が敷かれ、貧富の差が固定化した社会。始終灰汁(あく)色の霧に覆われた最下層地区で暮らす人々の間には、諦念と絶望で満ちている。
そこから自由を求めて飛び立とうとする16歳のヤンが、本書の主人公である。聡明で物静かな彼とは対照的に、親友のゴドは行動的で明るい性格。今回は控え目な登場だが、今後物語に深く関わってくるのだろう。本書では、少年たちの成長と、悲劇の宇宙船・“ヴィヴァーチェ”の再来、王族の内紛など、いくつもの糸がまだつながりをもたないまま展開していく。

シリーズ作品なので、現時点ではなんとも言えないが、それほど新鮮味のない物語だな、というのが第一印象。ある程度文明が進むと、社会システムは再び身分制へと逆行するものなのだろうか。この手のパターンが多いので、ちょっと食傷気味。
世界観としては貧弱なので、しっかりとしたSFを読みたい人には物足りないと思う。反対に、私のようなSFが苦手な人でも、読みやすい作品といえる。
ちなみに挿画は、村上勉さん。…いや、この方の絵は大好きなのだけれど、どうにも登場人物がコロボックルに見えて仕方がない。宇宙ロケットが飛び交う“近未来”を描いているのに、妙にノスタルジックな作品である。

とはいえ、現状を打破する熱と力を、少年に託して描き出す手腕はさすがである。
あさのあつこさんの文章は、静かで美しい。だが、その奥にはマグマのような怒りと激情が渦巻いている。それは、ヤンの人物造形に顕著である。
冷静さと激情と。ストーリー云々以前に、そんな両極の絶妙なバランスを味わえるあさのさんの文章が、私はとても好きなのだ。[Amazon]

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