『千の嘘』ローラ・ウィルソン
- ローラウィルソン
- 東京創元社
- 1155円
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書評
本書を読んで私の脳裏をよぎったのは、オーストリアから発信された衝撃のニュースである。
父親が娘を24年間にわたって自宅地下室に監禁。性的暴行を加えて、7人の子どもを産ませていた、という事件である。日本でも大きく取り上げられたので、ご記憶の方も多いことと思う。
犯人の顔写真や地下室の様子が公開、次々と事件の全貌が明らかになるにつれて、そのあまりの悲惨さに言葉を失った。なにより衝撃だったのは、近所の人が“鬼畜”と呼ぶにふさわしい男のことを、「こんなことをするとは思えない、まったく普通の人」と話していたことだ。
外から見ただけでは、決して窺い知ることのできないもの。そのひとつが、家庭であろう。傍目にはどんなに幸せな家庭に映っても、真実の姿は中に入ってみなければ分からない。一歩足を踏み入れるとそこには、底知れぬ闇が広がっているかもしれない。本書は、「家庭」という名の牢獄に囚われた人々の物語である。
ある一家の闇を暴くとば口となるのは、一冊の日記帳だ。
物語を語るアイテムとして日記をもってきたところが、おもしろい。プライベートな出来事や心情が綴られた、ごく個人的な記録。けれど、“真実”を語っているとは限らない。
主人公のエイミーは、母親の遺品の中で見つけたモーリーン・シャンドという女性が書いた日記の不自然さに気づく。そこにドメスティック・ヴァイオレンス(DV)の匂いを嗅ぎ取ったエイミーは、モーリーンと彼女の家族について調べ始めることに。
エイミーを突き動かしたのは、ジャーナリストとしての好奇心だけではない。自身も家庭に問題を抱えていたため、モーリーンの身の上に親近感を覚えたのだ。本書では、さまざまな家庭の姿が描かれているが、本来家族を結びつける「絆」であるはずの血が、自由を奪う「鎖」となっているのが悲しい。
本書は決して楽しい物語ではない。むしろ、秘密が暴かれるにつれて気が滅入ってくる、嫌なミステリーである。作者は加害者の狡猾さ・残虐さを容赦なく描き出しており、吐き気をもよおすほどだ。
とともに、被害者の歪んだ心理も指摘し、単純に「支配―被支配」「加害者―被害者」の図式で捉えていないところに、この作品のすごさがあるといっていい。
私の友達に、同棲していた恋人に暴力を受けていた子がいる。一番やっかいだったのは、彼女の身をかくまい、かばった者にまで危害を加える相手と関わることではなく、殴られるのが分かっていても恋人の元へ戻ってしまう彼女を理解することであった。当人同士の問題を、他人がどこまで口を出せるのか。あのときほど無力感に苛まれたことはない。
もちろん、DV問題はそれぞれ事情が異なるだろうが、そんな男性に惹かれてしまう女性の素地や、日常的な暴力に衰弱して心の中で折り合いをつける姿がリアリティーをもって迫ってきて、いろいろな意味で考えさせられた。
それにしても、ひたすら気持ちが落ち込む一冊。覚悟して読まれたし。
イギリス:日暮雅通・翻訳
A Thousand Lies
Laura Wilson

※本書は、本が好き!経由で献本していただきました。

千の嘘

ぐらさん、こんにちは。
オーストラリアの、父娘の事件は覚えています。
本当に、びっくりですよね。
私も、こどもを育てていて思うのは、家庭というのは
悪くすれば、恐ろしいほど閉鎖的だと思います。
親が子を虐待しようが、何をしようが、他人にはわからない・・・。
自分に余裕がないときに限って、子どもが聞き分けのない
事を言ったりすると、カーッとなっている自分に恐ろしく
なることも、多々あります。
そんなとき、一番頼りになるのは親や、隣人や、友人です。
家庭という密室にも、どこか風を通しておかないと
精神的にも不衛生になってしまうのでしょうね。
返事が遅くなってごめんなさい。
母親といえども、感情的に怒ってしまうこともあるでしょうね。
それでも、3人のお子さんを育ててらっしゃる、
というだけで尊敬してしまいます。
わたしなんて、飼い犬一匹にすら振り回されている未熟者ですから…。
そういえば、最近起こっている親殺し子殺しの事件をみていると、
家庭という閉ざされたコミュニティーが自分の全世界、になっているケースが多いように思います。
言うは易く行うは難しですが、
「風通しのよい家庭」、ほんとうに大事ですね。