『エヴァ・ライカーの記憶』ドナルド・A・スタンウッド

エヴァ・ライカーの記憶

  • ドナルド・A.スタンウッド
  • 東京創元社
  • 1470円

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書評

長らく絶版になっていた一冊が、版元を替えて復刊された。本書は、かの有名な〈タイタニック号〉沈没をモチーフにしたミステリーである。

本格ミステリ、サスペンス、ハードボイルド、パニック小説、ゴシックホラー、冒険小説に歴史と、なんとも間口の広い作品である。良く言えばジャンルにこだわらず“おもしろさ”を追求した柔軟な小説、悪く言えばなんでもありのごった煮小説、といったところ。
ともあれ、たいていの読書好きを楽しませる一冊だと思う。プロットはよく練られているし、最後に明かされる真相には文字通り「あっ」と驚かされた。本書の半分近くのボリュームを占める〈解明編〉には、ミステリファンならずともページを捲る手を止められないはず。この『エヴァ・ライカーの記憶』が、“傑作・エンターテイメント”と賞賛されるのも肯ける出来である。

ただ、人間の心の動きを細やかに描いた作品を好む人は、登場人物たちの不自然な振る舞いに首を傾げたくなるのではないだろうか。

なにより、ノーマン・ホールという主人公が不可解である。彼は若き巡査時代、惨殺現場のあまりの恐怖に職務放棄した過去を持つ。21年の歳月を経、作家として確たる地位を築いたにもかかわらず、心の汚点は決して消えることがなかった。
そんなとき舞い込んだのが、タイタニック号に関するノンフィクション記事執筆の依頼。ノーマンにとって〈タイタニック〉は、苦い過去を思い出させる、忌むべきものである。この仕事を引き受けるに当たっては、相当な覚悟で臨んだはずだ。
ところが、本書からはその必死さが全くといっていいほど伝わってこない。それどころか、取材を進め事件に関わってゆくうちに、むしろ探偵役を楽しんでいる風にすら見える。そのため、モノトーンに沈んだ物語の中で主人公の存在が“浮いて”しまい、読み手としては興ざめするのである。
また、悪の体現者のような犯人の行動も解せない。ネタバレになるため詳しくは書けないが、船が沈没する間際の緊迫した状況の中、あのような行動に及ぶものだろうか。この人物は冷酷非情だが、“馬鹿”ではないと思うのだが。

どうもこの作品の登場人物は、作者の考えたプロットに合わせ、秩序だって動かされているように感じてならない。
死んだクライン夫妻が、隣人にタイタニック号で世話になった乗組員・マクファーランドの話をしていなかったら、あるいはそのマクファーランドがエヴァの父親に会いに行かなかったら、そもそもクライン夫人がノーマンに自分がタイタニックの生還者だと語っていなかったら、事件の真相に辿り着くことはできなかっただろう。
ひとつのピースが別のピースのありかを知らせるヒントとなり、時空を隔てた三つの出来事の背景を少しずつ浮び上がらせてゆく。これを「精巧に作り込まれたパズル」とみるか、「都合のよすぎるストーリー展開」とみるか。少なくとも、一度でも引っかかりを感じると、後々まで尾を引いてしまう、ということは言えるかもしれない。[Amazon]

アメリカ:高見浩・翻訳

本書は、本が好き!経由で献本していただきました。

  1. ぐらさん、こんにちは。
    毎日お疲れ様です。
    ぐらさんが帰って来てくださって、うれしいな~。
    また楽しませていただきますね。

    • ぐら
    • 2008年 10月30日 10:08pm

    お久しぶりです。
    なんとか生きてました。
    ふうたんさんご家族のお話を読むと、ほっとしますね。
    そういえば、ふうたんさんって山本一力さんの作品がお好きなんですか?
    いま日経夕刊で新連載が始まっているのですが、楽しんで読んでます。

  2. ぐらさん、またまたこんにちは。
    山本一力さん、大好きですよ。
    前向きな気持ちになれて、元気がでてくるんです。
    なんだか疲れちゃったな~、って思ったときも
    もういっちょやってみるかなって思えるようになるんです。
    「かんじき飛脚」を読んだので、ブログで紹介しますね。
    日経夕刊での新連載、読んでみますね♪

    • ぐら
    • 2008年 10月31日 11:54pm

    時代小説ではやっぱり周五郎が不動の一位なんですが、
    山本一力さんの作品は食べものの描写が美味しそうなので好きです。
    (って、ふうたんさんの感想と全然違いますね)

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