『夕陽の梨 五代英雄伝』仁木英之

夕陽の梨―五代英雄伝殷・周・秦・漢・三国・晋 南北朝・隋・唐・五代~♪
これを、「もしもしかめよ かめさんよ」の童謡の節にのせて歌うと、あら不思議。どんなに記憶力の悪い人でも、中国の歴代王朝が時代順にすらすらと出てくる。
学生時代この替え歌で、幾度試験を乗り切ったことか。ただ、この暗記法の欠点は、最初から歌わないと中華人民共和国まで辿り着けないことである(ちなみに、「かめさん」バージョンより細かいアルプス一万尺のメロディで覚えていた友達もいた)。中国の歴史替え歌を知っているかどうかで、その人の年齢が分かるとか分からないとか。

それはともかく、本書である。
舞台は、先の替え歌で言えば「南北朝隋唐五代」の五代十国時代に入る少し前、唐朝が弱体化し各地で群雄割拠する戦国時代の中国である。
なんというか、中国の歴史(に限ったことではないかもしれないが)を紐解いてみると、戦争→建国→発展→官僚の腐敗・圧制→民衆の不満爆発→戦争というサイクルを延々繰り返しているようで、やるせない気持ちになる。もちろん、その時代の人たちは最善の行動と信じ必死で生きているのだろうが、もうちょっと学習しようよ、と言いたくもなる。

大いなる野望を胸に戦いながらも、志なかばで散ってゆく男たち。生まれては消えてゆく王朝。栄枯盛衰を繰り返しながら、歴史は弛むことなく続いてゆく。
その中国史で理解しにくい時期のひとつが、この五代十国時代ではないだろうか。文字通り北に五つの王朝、南に十の地方政権が交替して乱立する非常にややこしい時代である。
『夕陽の梨―五代英雄伝』は、のちに後梁を築くことになる朱全忠(朱温)の若かりし頃の物語。奴婢として蔑まれていた子ども時代から、黄巣の乱に加わって頭角を現すまでが描かれている。
朱全忠の青年時代を描いた小説自体、珍しいのではないか。ただ、「英雄伝」との副題がついているものの、後梁建国までは描かれておらず、いよいよこれから、というところで幕を閉じるので消化不良は否めない。さしずめ『三国志』でいえば、若き曹操が何度も負け戦を経験して、「俺はお前が命をはって守っただけの男になってみせる」と決意したところで終わる感じだろうか。

それにしても、戦国時代を題材にすればどうしたって血なまぐさくなるものなのに、このほのぼの感はなんなのだろう。作者は史実の残酷な部分をできるだけ削り取って、シスコン・朱温の成長物語に絞って描いている。
とはいえ、『僕僕先生』だとほどよく力の抜けたキャラクターが魅力だったが、本書の場合、血湧き肉踊る群雄物語とは言い難く、どの人物も小粒に映る。虐げられてきた朱温少年が、家族や愛する者のために立派になろうと頑張る姿には思わず応援したくなるいじらしさがあるが、どこに天下を取るだけの力があったのか、その魅力が伝わってこない。
するすると読みやすいが、少なくとも飯嶋和一あたりの硬派な歴史小説が好きな人には物足りない一冊だと思う。[Amazon]

  1. 夕陽の梨五代英雄伝 仁木英之

    夕陽の梨―五代英雄伝
    装画はタケウマ。装丁は柳川貴代。第12回歴史群像大賞最優秀賞作品。
    中国、唐代末期。奴僕から五代十国の後梁を建…

  2. こんばんは。
    トラックバックさせていただきました。

  1. 2009年 11月5日
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