『赤めだか』立川談春

赤めだかこれ、おもしろかったよ、と薦められたので読んでみた。
評判の一冊、らしい。著者は、立川談志のお弟子さん・立川談春。

朝ドラ史上屈指の名作「ちりとてちん」で落語のおもしろさに目覚めたとはいえ、まだまだ若葉マークの私。立川談志は知っているが、漫談しか聴いたことがない。そういえばこの人、落語家なんだったっけ、という失礼な認識である。
そんな訳だから、立川談春の高座はおろか、名前を聞くのも初めて。どうやら本書、彼の落語家人生を綴ったものらしい。知っている落語の根多(ネタ)もわずかな上に、談春って誰?というレベルの私が手に取っておもしろいのだろうか、と恐る恐る読み始めたところ、これがハマった。行間がゆったりと取られて文字数が少ないので、とても読みやすい。もっとも、あっという間に読み終えてしまうのは、その内容に引き込まれてしまうからなのだが。

競艇選手を夢見ていた少年は、身長制限の壁に阻まれ進路変更を余儀なくされる。そんな時、立川談志の落語に衝撃を受け、弟子入りを志願することに。
緊張しながら家を訪問した少年を待ち受けていたのは、真っ赤なジーンズ地の半ズボンにミッキーマウスがプリントされた白いTシャツを着た談志。落語家で師匠と呼ばれるお方、着物を着て奥の間で悠然と構えている、と考える私はステレオタイプの人間なのだろうか。

旧態依然とした落語協会を脱会、師匠とも決別した型破りな談志ではあるが、落語に対する情熱・努力は並々ならぬものがある。その姿勢は、立川流における二ツ目昇格の基準に如実に表れているのではないか。

一、古典落語の持ち根多を五十席覚えること。
一、寄席で使う鳴り物を一通り打てること。
一、歌舞音曲を理解していること。
一、講談の修羅場を読めるための基本的な技術を積み理解すること。

上記すべてを談志が聴いて、判断を下すのである。

本書を、ひと言で「立川談春の青春記」と表現してしまうのは、どうも淡泊に過ぎるような気がする。
個性豊かな兄弟弟子との交流、前座修業時代の苦労、落語家としての心得といったものがユーモラスに綴られており、ふふふ、と笑いが込み上げてくる一冊なのだ。なかでも立川流一門のエピソードは、落語の登場人物たちが抜け出てきたかのよう。
けれど本書は、ただおもしろいだけではない。読み進めてゆくうちに、テンポある語りの核にある、師匠・立川談志への熱烈たる思いに気づくのである。
師弟とは、これほどまでに強い絆で結ばれているものなのか。弟子の成長を願う師匠、師匠を求め抜く弟子の姿に、ピンと背筋の伸びる思いがする。[Amazon]

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