『カリギュラ』アルベール・カミュ
蜷川幸雄演出・小栗旬主演で話題になった舞台の原作。
劇場に行けなかったが、「情熱大陸」は観たぞ、という人は多いのではないだろうか(かくいう私がその一人)。
それにしても、この戯曲が『異邦人』で有名なカミュ原作とは知らなかった。長らく絶版だったものが、版元を替え新訳で復活したのが本書である。小栗旬や勝地涼をイメージしながら読むのもよし、理不尽な運命の前で右往左往する人間の無力さに思いをはせるもよし。
主人公は、カリギュラ。第3代ローマ帝国皇帝・ガイウス・カエサルのことで、カリグラ(カリギュラはフランス語読み)の愛称で知られる人物である。
この戯曲、特にストーリーらしいものはない。
愛する妹を失った悲しみから狂気の暴君へと変貌を遂げたカリギュラの非道なふるまいの数々を描いただけ、といえる。例えるなら、突然ものすごい嵐がやって来たかと思うと、家々や木々をなぎ倒し、町を滅茶苦茶に破壊しながら一気に通り抜けていったような作品である。
人は打ちのめされるほど辛い目に遭った時、その苦しみを内に向けて閉じこもるタイプと、外部に向かって発散・攻撃するタイプの大きく二つに分けられると思う。で、カリギュラは後者。
最愛の妹の急死を受け入れられない彼は、自分が不条理そのものになり代わろうとする。普通ならちょっと痛いヤツで済むところ、ローマ皇帝・カリギュラは強大な力をふるって人の生き死にを決め、自由を奪うことができるのだから笑えない。
暴虐の限りを尽くすカリギュラの姿は、思い通りにならないことに腹を立てて暴れる子どものよう。彼は、「暴君」という役を「論理的」に演じ、神をも超える存在になろうとする。これは、彼の孤独で無謀な闘いの物語なのである。
「演じる」という戯曲の性質上、ここに登場する人間は感情の揺れ幅が大きく、しぐさや言い回しも大袈裟である。
私は、セゾニアほど無私の愛を注げないし、ケレアほど勇気もない。シピオンほど純粋でもないし、エリコンほどの忠実さも持ち合わせていない。ましてや、カリギュラほど情熱的でエゴイスティックになることはない。
にもかかわらず彼らは、私の内に渦巻く怒りや恐れ、無力感、不安、葛藤、なにもかもぶち壊してしまいたくなる衝動といった、言葉にならないもやもやとした思いを代弁してくれるのである。欲しかったのは、気休めの言葉や魂の安寧ではなく、ままならない現状を共に嘆き、怒ってくれる存在なのかもしれない。
『カリギュラ』は、若いときにこそ触れるべき作品だと思う。解説によれば、カミュがこの戯曲の草案を起こしたのは23歳のときだという。その後、ナチズムの狂気を経て改稿されてゆくが、カリギュラの叫びは若きカミュの叫びそのものだったのではないか。
この小さな星で我がもの顔に振る舞う人類ではあるが、科学技術が進歩した現代でも私たちが思い通りにできないことの方が遥かに多い。北京五輪の際、雨雲をロケットで撃ち払った中国の例があるとはいえ、人間は自然の脅威の前でなすすべもない。生死もそうだろう。
人間は神にはなれない。近づけたとしても。
運命を支配しようとしたカリギュラの心の揺れ・迷いは、そんな限界を表している。けれど私は、その弱さをとても愛しいと思う。方向性は間違っているが、不条理に挑んだカリギュラや、それぞれのかたちで非人間的な力に立ち向かおうとしたケレアたちを美しいと思うのだ。
ただ、これだけは言いたい。
高い!高いぞ、ハヤカワ演劇文庫!(怒りをあらわにするカリギュラ風に)
200ページも満たない薄さ、しかも文庫本で700円は高すぎる。せいぜい500円がいいところだろう。数百円レベルでとやかく言う自分のセコさが嫌になるが、戯曲を多くの人に読んでもらおうと創刊されたレーベルなのに、この価格設定はどうなんだろうか。[Amazon]
フランス:岩切正一郎・翻訳




きっと、マニアックなレーベルは普通の人がまず買わないから、高いんですよ……。
出版社も最初から売れるだなんて思ってないでしょう、物好きな人は、多少高くても買うみたいです。
ハヤカワ演劇文庫なんて小さな本屋さんじゃ置いてないですし、講談社文芸文庫しかり、河出文庫(の哲学系)しかり、
僕はせこいから、高いといきなり買う気なくします。
価格が高い→買うのを諦める→好きな人だけが読む→さらにマニアックに
なっていくような気がするんですが。
講談社文芸文庫なんて、文庫本なのに単行本並の値段ですもんね。
>ハヤカワ演劇文庫なんて小さな本屋さんじゃ置いてないですし
この「カリギュラ」も、小栗旬主演じゃなかったらここまで売り出してなかったと思います。
(帯に気合を感じます)
最近に戯曲を読んで、『カリギュラ』は、カミュの中でもけっこう好きな作品になりました。
今更ながら、なまで舞台が見てみたかったなあと思います。
写真を見ている限り、けっこういかれた王さまっぽく演じているようなので。・・・
『カリギュラ』カミュ
[不可能!]
月を手に入れようと手をのばしても、願いは叶わない。ならば?
カミュによって『異邦人』『シーシュポスの神話』とと…
>ふくろう男さんへ
舞台、観たかったですよね。
さりとてDVDを買うのは躊躇われ。
とりあえず、舞台を観た人のレビューを見てなぐさめてます。
女装したカリギュラが踊りながらフェイドアウトしていく場面、
小栗旬はどう演じたのか、気になります。