『汐のなごり』北重人
6つの物語からなる時代小説集。
北重人の作品を読むのは初めてなので、ひとつひとつの手触りを確かめるように読み進めていった。
舞台は、北前船が着く北の湊町・水潟(みなかた)。米どころの産地として知られ、冬は厚い雪で覆われる北国である。そこで暮らす庶民や武士たちの悲喜こもごもを静かに綴った一冊。
東北地方にある架空の酒出藩、とくれば、自然とかの有名な海坂藩が頭をよぎる。気になって著者略歴を見てみると、山形県出身とのこと。ちなみに水潟のモデルは、出身地の酒田市。これはもう、どうしたって藤沢周平と比べてしまう。
美しい風景描写や心の襞に分け入るような筆致に藤沢作品を重ね合わせてしまうとはいえ、なかなかどうして読ませる一冊である。乙川優三郎作品が好きな人なら、気に入るはず。
近年、ファンタジックで時代小説に馴染みのない人でも読みやすい作品やキャラ作りに力を入れたものが増えているが、時代小説って本来こういうものだよなあ、としみじみ思う。
家族の絆や誇り、耐え忍ぶ生き方といった、日本人の心を描いたもの。わび・さびの世界である。この渋さのために、時代小説は中高年男性の読むもの、というイメージが定着したのかもしれないが、日本人なら誰でも年齢に関係なく、心の深いところに訴えかけてくるものだと思う。
それにしても、16年間ひとりの男を想い続ける元遊女を描いた「海上神火」にしろ、飢饉で離ればなれになった兄弟の再会を描いた「海羽山」にしろ、米相場師の息詰まる駆け引きを描いた「合百の藤次」にしろ、抑制の効いた筆致でじわじわと描きつつ、最後に抑えていたものをパッと解き放つような描き方をする作家である。さては、ミステリー・タッチが好きとみた。
ただ、6篇どれも同じパターンなのはどうかと思う。設定が違うだけで作風のバリエーションに乏しいのが残念。[Amazon]



コメントはまだありません。