『007/ロシアから愛をこめて』イアン・フレミング

007/ロシアから愛をこめて 新版

  • イアンフレミング
  • 東京創元社
  • 987円

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書評

世界で最も有名なスパイ、ジェームズ・ボンド。
「007」という数字を見ただけでテーマ曲を口ずさんでしまうパブロフの犬状態の私だが、原作を読むのは初めて。
本書は、シリーズ史上傑作の誉れ高い第5作目である。ちなみに、映画タイトルは「ロシアより愛をこめて」。テレビで放送されていたものを何度か観たことがあるのに、ほとんど内容を覚えていなかった。ショーン・コネリーの表情や所作は目に浮かぶのに。
本当に観たんだろうか、と自分の脳みそに不安を感じるほど忘れていたので、ある意味新鮮な気持ちで読めた。

物語は、ソ連情報部が西側諸国の権威を失墜させるために、英国秘密情報部のエース・ボンド暗殺を企む、というもの。
普通なら、なんらかのミッションを受けたボンドが他国に潜入して諜報活動する流れになるのだが、今回は敵の仕掛けた罠へそうと知らずにおびき寄せられてしまう。ボンド危うし!の巻である。解説で触れてあるが、初上映された時の邦題は、「007危機一発」。これは水野晴郎が考えたらしいが、言い得て妙のタイトルである(「髪」を「発」にするところなんて特に)。
とはいえ、そこは007。危険な目に遭ってもまあボンドなら大丈夫だろう、というムードが漂う。読者にはソ連側の描いたシナリオがある程度分かっているので、誰が裏切り者か、と疑心暗鬼になることもなく、安心して読み進めていけるスパイ小説である。

映画のようなワクワク感は少ないものの、微に入り細をうがつ描写は小説ならではの魅力。今回原作を読んで、舞台となる場所や実在する組織から人物造形にいたるまで、非常に細かいところまで書き込まれてあることに驚いた。
なにしろこの作品、物語の1/3を過ぎてようやくボンドが登場するのだからおもしろい。
それまでは、ソ連の公式殺人機関スメルシュや殺し屋グラントの描写が延々と続き、どちらが主役か分からないほどである。ボンドファンならやきもきしてしまう構成ではあるが、後で言質を取られないために立会人を同行させるソ連の会議風景や、現代版・狼男のくだりは、なかなか読ませる。

ところで、007シリーズといえば、Q課の作った最新鋭のアイテムが見どころのひとつだが、ここではナイフが仕込まれたアタッシュケースや、拳銃の消音機が入ったチューブ式のシェービングクリームといった単純なものに留まっている。この頃は、ボンドもかなり人間的。
その代わりという訳ではないだろうが、この作品では本が小道具として効果的に使われている。
グラントが手にするは、トルストイの『戦争と平和』。迎え撃つボンドが手にするは、アンブラーの『ディミトリオスの棺』。小説で東西対決をさせるところに、思わずにやり。本好きなら眉をひそめたくなる使用法なのに、むしろ嬉しくなってしまうのはなぜだろう。[Amazon]

イギリス:井上一夫・翻訳

From Russia With Love
Ian Fleming
From Russia With Love: A James Bond Novel

007 ロシアより愛をこめて [DVD]
007 ロシアより愛をこめて アルティメット・エディション [DVD]

本書は、本が好き!経由で献本していただきました。

    • piaa
    • 2008年 12月15日 9:25pm

    原作シリーズのファンの私としては、創元社のものは以前より手に入りやすくなっているようで嬉しいです。
    映画がいつも評判になるのになぜ原作に脚光が当たらないのかいつも残念に思っています。
    私にとっての最高傑作は映画も小説も「女王陛下の007」です。原作はハヤカワから出ていましたが現在廃刊。ハヤカワも再刊してくれるといいなあ。

    • ぐら
    • 2008年 12月16日 10:51pm

    >piaaさんへ
    原作は良かったのに映画は・・・というのが一般的なのに、
    映画ほど原作が知られていない作品ですよね、007って。
    piaaさんみたいな方って、貴重な少数派なんじゃないでしょうか。
    わたしは007というよりも、ショーン・コネリーが好きなので、
    どうしても肩入れしてしまいます。
    「女王陛下の007」はハヤカワなんですね。
    この新版は創元推理文庫なので、どうせなら版元を統一して再刊してほしい!

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