『若者はみな悲しい』F・スコット・フィッツジェラルド

若者はみな悲しい (光文社古典新訳文庫)ヘミングウェイつながりで一度は読んでみたいと思っていたフィッツジェラルド。
代表作『グレート(華麗なる)・ギャツビー』『夜はやさし』から読むつもりだったが、今回古典新訳文庫から短篇集が出たので、まずはこちらを手に取った。
自選短編集なのでフィッツジェラルドを知るには最適だろう、と期待していたのだが、はっきり言って私には合わなかった。もうこの一文を書いただけで、フィッツジェラルド愛読者がこのブログを閉じるのが目に浮かぶ。けれど、好きになれないのだから仕方がない。

なるほど、構成といい文章といい、小説としての完成度はかなりのものである(何様だ)。
とりわけ魅了されるのは、色彩に富み視覚に訴える情景描写。解説でも触れてあるが、「冬の夢」のジュディが海でクロールする場面なんて、息を呑むほど美しい。フィッツジェラルドを読んだ後は、周りの景色がこれまでとは違って見えるほどだ。

ここに収められた9篇中、「お坊ちゃん」「冬の夢」「『常識』」が読ませるが、その中でも「冬の夢」が最も優れた一篇だと思う。
自由奔放な女性を愛した日々がどれほど輝かしく幸福だったか、大人になって気づく主人公の男性。しかしその時には、過去はすでに遠いものになっている。季節の移り変わりと主人公の青春時代をオーバーラップさせ、失ったものへの憧憬の念を切々と綴った作品である。他の収録作をみても、青春の美しさを追想する時のフィッツジェラルドの筆は異常に冴えわたる。

しかし、果たしてこれは恋と呼べるのだろうか。
ここで描かれる女性は現実的な存在として浮かび上がってこないので、心を通わせる恋愛に思えない。男はまるで女神のように女を仰ぎ見、一方的に夢中になり、所帯じみてしまった女に勝手に幻滅する。女からすれば、「わたしの方が悲しいわよ」と言いたくなるのではないか。
自由奔放さという点では『日はまた昇る』もなかなかのものだが、ヘミングウェイはその女性の胸の内も書いているので好感が持てる。原題は「ALL THE SAD YOUNG MEN」だが、ここには「WOMEN」は入っていないのである。
また、学生時代ほど馬鹿になれなくなったとはいえ、二十代には二十代の、三十代には三十代の良さがあると思う私には、過去に目を向ける登場人物たちに魅力を感じられない。あまりにもリアル過ぎて、厭わしい過去まで思い出してしまった。

ところで、村上春樹は最も影響を受けた作品に『グレート・ギャツビー』を挙げているそうだが、この短編集を読んで納得。多分、ハルキストはフィッツジェラルドも好きだろうし、もっといえばサリンジャーも気に入るんだろうな、と思う。逆もまた然り。
読書はしごく個人的なものなので、ある人にとっては傑作であっても、別の人には駄作ということはよくある。それはもう、読み手の好みの問題だ。ただ、ネット上でフィッツジェラルドを絶賛する声が非常に多いことが気になった。そんなに過去へのベクトルが強い人ばかりでもなかろうに。

訳者あとがきによれば、来秋には小川版・『グレート・ギャツビー』がお目見えするとのこと。フィッツジェラルドは長篇と短篇集を交互に出しており、本書は『ギャツビー』と縁の深い一冊なのだそうだ。
先行訳の重圧を承知の上で挑んでみたいと思わせる魅力が『ギャツビー』にはあるのだろうか。本書に反感を抱いた私がそのおもしろさを感じられるのか、かなり不安だが。[Amazon]

アメリカ:小川高義・翻訳

    • piaa
    • 2008年 12月17日 12:33am

    おおっ、やっぱりぐらさんもダメでしたか、フィッツジェラルド!
    なんだか嬉しいなあ。
    わたしも全然ダメでした!
    って「ギャツビー」しか読んでないけど。
    ぜひ「ギャツビー」も読んでください。どこが気に入らなかったか語り合いましょう。
    「ギャツビー」の当方ブログの記事はこちら
    http://piaa0117.blog6.fc2.com/blog-entry-623.html

    • ぐら
    • 2008年 12月17日 7:52pm

    >piaaさん
    はい、ダメでした。
    あの、女性の描き方が。
    あの、過去を美化する主人公たちが。
    文章は素晴らしいのですが・・・。
    フィッツジェラルドを批判する人って少数派ですよね。
    でも「ギャツビー」は読んでみたいと思ってます。

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