『赤い高粱』莫言

赤い高粱 (岩波現代文庫)現代中国文学を代表する作家・莫言。
『赤い高粱』は、彼の名を世に知らしめた出世作である。
もともとは、独立した中篇小説として発表されたもの。後に、中篇四篇を合わせた『赤い高粱一族』として一冊の本にまとめられた。「赤い高粱」「高粱の酒」「犬の道」「高粱の葬礼」「犬の皮」の五篇から前二作のみを文庫に収めたのが、本書。
なぜ後の三作を外したのか、という疑問は残るが、第一章の「赤い高粱」だけでも十分読み応えのある一冊である。というより第二章「高粱の酒」は、高粱酒を作る様子は興味深かったが、一部の人間を切って捨てるような描写に引っかかりを感じて素直に楽しめなかった。

舞台は、一面に高粱畑が広がる中国山東省高密県東北郷(という架空の地)。
1939年の抗日戦線から幕を開ける。そこに、村へ日本軍が侵略してきたばかりの頃と、15年ほど前の婚礼のエピソードが細切れに挿入され、時間の錯綜する構成になっている。
それにしても、なんて迫力のある小説だろう。ひとりひとりの人間の生きる力が、激情が、むっと立ちのぼってくる。
ボロ屑のように死んでいく者、体液を垂れ流して大地に倒れる者、山積みの死体、生きたまま皮を剥がれる捕虜、敵の死体に陵辱する抗日ゲリラ、高粱畑で荒々しく性交する男女・・・。
ここには、動物的・原始的と思えるほどのむきだしの「生」と「死」が転がっている。理性や思想といった、およそ“人間的”と呼べるものをすべて剥ぎ取った後にも人間は残るのか―。そんな文学の限界に挑戦するかのような作品である。

自然とともに生き、内に熱い血をたぎらせた人間は、そのまま赤い高粱一本一本と重ね合わさる。隠喩ではない。まるで感情ある生きもののように、笑い、嘆き、悲鳴をあげる高粱の姿がここには描かれている。
莫言は、圧倒的な「物語る力」を持っている作家だと思う。
日本侵略下の中国を、大きな歴史の流れや抽象的な概念に集約するのではなく、伝承というかたちで個々人の生き様を描き出す。声高に反戦を叫ぶより、かえって心揺さぶられるのである。
ただ、語り手の祖父で抗日ゲリラとして戦った余占鰲や肝の据わった祖母・戴鳳蓮など主要人物は魅力的に造り込まれているのに、その他の人間にはかなり冷淡なのが気になった。ハンセン病患者に対する偏見もそうだし、実の両親への冷たい仕打ちもやり過ぎだろう。
世の中の規範や旧来の道徳観といったものに捉われないことが作者の狙いだとしても、ブラックユーモアと下品さは紙一重だと思う。[Amazon]

中国:井口晃・翻訳

monologue
鄭義の『神樹』と並行して読んでいたせいか、一種の麻痺状態になって“異常な”状態を“普通”に受け入れている自分がいました。いかん、いかん。
ただ、グロテスクな描写は本を置いた後もしばらく尾を引きます…。でも現実はこんなものじゃなかったんでしょうね。

それにしても、『百年の孤独』が現代中国文学に与えたインパクトって、かなりのものだったんですね。
鄭義と莫言というふたりの作家を通して、改めてG.ガルシア=マルケスの凄さを感じさせられました。

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  1. ぐらさん、こんにちは。
    お久しぶりでございます。お元気ですか。
    中国を舞台にした本では、私は「ワイルドスワン」が好きです。
    「鴻」という字は、うちの末っ子(息子)にも使っているくらいです。
    女性社会を舞台にしているのですが、日本の昔の様子にも似通っている
    ところがあると思います。
    中国では、結婚すると指輪やネックレスなどを夫から妻に送る風習が
    あるのですが、それはネックレス=首輪のような意味合いもあるそうです。
    翡翠は、女性の親が持たせるそうですが、それはお嫁に行った先で
    虐待などにあわないようにお守りとして持たせる親心でもあったそうです。
    女性の価値がとても低かった時代は、日本も中国も同じようなものだった
    のかもしれません。
    でも今は、日本も中国も女は強くなりましたね~!!

    • ぐら
    • 2009年 1月31日 2:50pm

    >ふうたんさん
    お久しぶりです。
    年が明けてからしばらく更新されてなかったので、具合でも悪いのかと心配してました。
    それどころか!
    ひと足早い春到来、おめでとうございます。
    そういえば、中国についてはふうたんさんがお詳しいんだった!
    ネックレス=首輪、ですか。
    女性が男性にネクタイをプレゼントするのも、そんな風に言いますよね。
    「ワイルドスワン」、今度読んでみます。
    (いま、自分の中で中国文学ブームなんです。)

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