『射鵰英雄伝(全5巻)』金庸

「読み出したら止まらない」という帯の謳い文句すら生ぬるく感じてしまう私は、完全に金庸ワールドの虜である。全作品を読破するまで、この熱は冷めないと思う。
本棚を他人に見られるのは脳内を覗かれるようで落ち着かないものだが、ネット書店の購入履歴を自分で見てもかなり恥ずかしい。いま金庸に夢中なのがバレバレだ。
考えてみれば、歴史好き、三国志好き、格闘技好きの私が武狭小説にハマらない訳がないのである。月並みな表現だが、とにかく「おもしろい」のひと言に尽きる。久しぶりに爽快な(といっても連日寝不足だが)読書を堪能した。
時は、南宋の中頃。
北方にテムジン(後のジンギスカーン)率いる蒙古、華北に女真族の金、江南に漢民族の南宋、西には西夏、西遼、チベットが広がる地図を見るだけで、激動期の中国を感じられるというもの。
全五巻にわたって繰り広げられる物語は、義兄弟の絆で結ばれた憂国の士が金兵に襲撃されるところから幕を開ける。彼らには各々、身重の妻がいた。
父の敵を討つ遺児の復讐劇かと思いきや、なぜか豪傑たちの対決のダシに使われてしまうからおもしろい。それも、生まれてくる子どもを弟子にして鍛え上げ、18年後二人のどちらが勝つか、というなんとも気の長い勝負である。提案する方も、「よし、やろう」とあっさり受ける方も、人が良いというのか単純なのか…。
やがて月日は巡り、一人はモンゴルの大草原で一兵卒として、一人は金国の王子として育てられる。
本作は、ジンギスカーンのもとに逃れた郭靖が主人公。物覚えが悪く容貌もぱっとしない男だが、素直さと忍耐力を強みに、めきめき武術の腕をあげてゆく。次々と優れた師匠に教えを受けてパワーアップしてゆく姿は、まっしろなキャンバスに筆が入り、鮮やかに彩られてゆくかのようだ。
郭靖の成長物語を縦糸に、幻の武術経典「九陰真経」の争奪戦を横糸に織りなされてゆく『射鵰英雄伝』。ちなみに、本作に『神鵰剣侠』、『倚天屠龍記』を加えて、射鵰三部作と呼ばれている。
中華社会では、郭靖と黄蓉はベストカップルの代名詞になっているそうだが、私はそれほど魅力を感じなかった。二人の違いを出すためかもしれないが、郭靖の愚鈍さはイライラするし、黄蓉の賢さは時折鼻につく。
むしろ、本作の魅力は東邪、西毒、南帝、北丐、老頑童といった武術の老達人たちの活躍(というか、やりたい放題ぶり)にあるように感じる。
老人は弱者として扱われることが多いが、ここでは老いてなお盛ん、どころか若者より生命力に溢れているのがすごい。それぞれの拳法同様、ひと癖もふた癖もある豪傑たち。武術も執着も、人一倍強い。
荒唐無稽で独創的なネーミングの武術や、派手なアクションシーンを楽しむ一方で、武術を極めてもなお煩悩を抱えて生きる人間の姿にシンパシーを感じて考えさせられる作品である。
ラストの、人を殺める武術に疑問を感じる郭靖の懊悩が印象的だが、作者が描きたかったのは武力の強さよりも、そんな心の揺れや人が人を思いやる、ごく自然な感情なのかもしれない。[Amazon]
中国:金海南・翻訳
射鵰英雄伝 (トクマコミックス)
李志清





金庸来ましたね!冷静なイメージのぐらさんがそんなにはまってしまうとは、ちょっと驚きです。
>久しぶりに爽快な(といっても連日寝不足だが)読書を堪能した
私が「笑傲江湖」を読んだ時も全く同じ感想を抱きました。私は歴史も、三国志も、格闘技も、さらには中国という国も好きではありませんが、それでもはまりましたからね。
全作品を読破って、量を考えるとすごく大変そうだけど、読み出したらあっという間のような気もしますね。
>piaaさん
ほんとうにハマりますね、金庸。
この勢いで、『神鵰剣侠』になだれ込んでます。
どちらかというと、小説より北斗の拳、ドラゴンボール、ジョジョといった漫画を読んで育った人間なので、こういう作品はものすごくツボなんですよね~。
わたしの内力なんて、限りなくゼロに近いですけど。
『笑傲江湖』はおもしろそうなので、楽しみに取っておこうかと思ってます。