『エジプト十字架の謎』エラリー・クイーン

エジプト十字架の謎

  • エラリークイーン
  • 東京創元社
  • 924円

Amazonで購入
書評

一時期エラリ-・クイーンにハマって、片っ端から作品を読み漁ったことがある。
謎解きのおもしろさを教えてくれたのがクイーンであり、皮肉なことに本格ミステリと相性が合わないことに気づかせてくれたのもクイーン。いろいろな意味で私にとっては印象深い作家である。

『エジプト十字架の謎』は、通称「国名シリーズ」の第四作目。
シリーズといっても、ひとつひとつの物語は独立しているので、どの作品から読んでもよい(私は律儀に第一作『ローマ帽子の謎』から読み始めたが)。ずいぶん前に読んだのに、事件の内容や犯人の仕掛けたトリックを鮮明に覚えていたのは、この作品がシリーズ中で最も衝撃的だったからかもしれない。

とにかく、派手なのだ。
はりつけにされた首なし死体のグロテスクな描写から、臨場感あふれる犯人追跡シーンに至るまで、エンタメ要素をふんだんに取り入れて読み手を魅了する。次々と上がる打ち上げ花火に目を奪われているあいだに、いつのまにか推理に必要な材料はすべて出揃っていた、という感じ。その手並みがあまりにも鮮やかなので、作者から叩きつけられた「読者への挑戦状」を前にしばし呆然としてしまうのである。

本書を読んでつくづく感じるのが、推理小説は論理ゲームなんだな、ということ。頭の中で展開して完結する、知的なゲーム。
これが刑事ドラマや文学作品だったら、動機、つまり“why”の方に力点が置かれて描かれるが、本格ミステリの場合は、専ら“how”、その結果の“who”を追求する。
集めたピースがしかるべき場所にパチリとはまったときの爽快感にやみつきになる反面、人間も駒のひとつと捉える割り切った考え方には正直ひるんでしまう。
この作品でいえば、第二第三第四の殺人が起こらなければ推理は完成しないし、犯人の胸の内も分からず仕舞い。トリックの意外性よりも、犯人が「狂人」の一言で片付けられたことに「ええ~」とのけぞってしまった私は、ミステリを語る資格はないのかもしれない。いや、ほんとうに推理小説としてはおもしろいのだけれど。

ところで、今回「新訳」版が出たのかとばかり思っていたのだが、よく見ると「新版」だった。
どうりで言い回しが古くさいわけだ。「小生」、「紙幣ばさみ」、「給仕」といった言葉に時代を感じる。時代といえば、本書の斬新なトリックも科学捜査が発達した現代では通用しないのだから、いまのミステリ作家は大変だなぁ・・・。[Amazon]

アメリカ:井上勇・翻訳

本書は、本が好き!経由で献本していただきました。

関連する(かもしれない)記事

  1. コメントはまだありません。

  1. 2009年 5月30日