『少しだけ欠けた月―季節風*秋』重松清
「季節風」シリーズの秋篇である。
もうすぐ桜も咲こうかというこの時期に読むのはどうかと思うが…。
秋になると、きまって何かを始めたくなる。
普通は新年なのかもしれないが、なんといっても芸術の秋、スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋なのだ。暑くもなく寒くもなく、花粉に悩まされることもない。過ごしやすく、もの思う頃である。
ものぐさの私が最もアクティブになる季節なのだが、重松ワールドの住人たちはここでも切なさと哀しみをかみしめ生きている。
親しい人との死別、というシゲマツ作品におなじみのテーマが影を潜めているからか、春・夏篇に比べると控えめな印象のある12篇。
ただそれは、直球勝負の「泣かせる」要素が少ないだけであって、作品の質としては前2作に負けず劣らず素晴らしいと思う。
登場人物の胸の内をそっと掬いあげるように、感情が爆発するギリギリ一歩手前のところを描いた作品集は、繊細で、しみじみ読み手の心に訴えかける。起伏はゆるやかだが、ほんの些細な変化が物語の深みへと誘ってくれる。重松さん、また巧くなったなぁ。新しい秋の風景を見せてもらったような一冊だ。
風物詩をうまく活かしてじわじわと心を揺さぶる、という点では、表題作と「キンモクセイ」が秀逸。
「少しだけ欠けた月」は、最後の夜を過ごす家族を描いた作品である。
両親の離婚、というどうしようもない現実を受け止める少年の悲しみと孤独。タイトルには、もう元には戻れない家族という意味だけではなく、いつかまた満月(満ち足りた気持ち)になることも暗示しているのだと思う。
「キンモクセイ」は、中年男性が年老いた両親の面倒を看られない負い目を抱えながら、引っ越し作業を手伝う様子が描かれている。
場面は生家から動くことはないのに、現在と過去を入り混ぜながら展開してゆく物語には、親が子を慈しみ、子が親を想う気持ちにあふれている。ある家族を静かに見守ってきたキンモクセイの存在が良い。はっきりと分かるハッピーエンドではないが、希望を感じるラストが心に沁みる。[Amazon]



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