『利休にたずねよ』山本兼一
「利休と秀吉の確執」という手垢のついた題材に、新たな息吹を吹き込んだ歴史小説。
少し前に読んだこの作者の『千両花嫁―とびきり屋見立て帖』はさほど印象に残らなかったが、本書はおもしろかった。
加藤廣の『信長の棺』といい、この作品といい、よく知られた史実に新たな視点(仮説)で切り込むのが、最近の歴史小説のひとつの流れになっているように思う。
たんに「権力者と芸術家の対立」という構図で千利休の死を描いても新鮮味はない。が、ここにひとりの女性をもってくると、話は俄然艶っぽく、謎めいてくるのである。
物語は、利休切腹の日・天正十九年(1591年)二月二十八日から語り起こされる。
続く第二話では切腹前日が描かれ、その後、十五日前、ひと月前、前年…と時を遡る。つまり読み手は、「死」という結果を出発点に、天才茶人の美の原点を探ってゆくことになるのである。
かつて蜜月状態だった秀吉と利休はなぜ対立したのか?
利休の、異常なまでの美への執着はどこから来るのか?
その謎の先に見えてくるのは、生命の神秘に対する畏怖である。限りある命を精一杯燃やし尽くそうとするものが放つ神々しさである。弱肉強食の戦国の世だからこそ、いっそう命の儚さと尊さを感じてしまうのかもしれない。
「侘び寂び」というと枯れたイメージがあったが、なるほど、こういう捉え方もできるのか、と興味深かった。連作短編集の形式をとった本書は、ひとつひとつの作品が味わい深く、しっとりと読ませる。構成はもちろん、この静謐で美しい世界観も魅力的な一冊である。
それにしても。
ひとりの女を想い続けた利休にしても、そんな利休像を描いてみせた作者にしても、男というのはなんてセンチメンタルな生きものなんだろう。ラストで利休の妻・宗恩が取る行動に、男と女の違いを感じてしまった。[Amazon]



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