『見知らぬ場所』ジュンパ・ラヒリ
普通になったな。
ジュンパ・ラヒリの最新作を読んでまっさきに感じたのは、このことである。
もっとも、ここで言う「普通」とは、「凡庸」という意味ではない。作家・ラヒリの見据えるものが確実に変わってきている、ということである。
ベンガル系インド人のアメリカ移民二世であるラヒリが紡ぐ物語は、異文化の狭間で揺れ動き、アイデンティを求めてさまようインド系移民の悲哀を映し出すものが多かった。「異文化」という要素がラヒリ作品の魅力であり、強みでもあったといえる。
が、本書では民族色は薄れ、個人の生き方や家族の絆、男女の情愛といったものが前面に押し出されるようになった。インドというバックグラウンドは登場人物の立ち位置を不安にさせるほどの影響力はなく、彼らを形づくる要素のひとつに過ぎない。「もはや遠ざかった時間と土地を基盤にした。」という言葉が表わすように。
この作品の変化に、私は時の流れを思う。種子が大地にしっかと根を張り、次々と花を咲かせ実を結ぶように、世界各地に広がったインド系社会は、時とともにその姿を変えてゆく。それは、アメリカで結婚して二児の母となったラヒリも例外ではないだろう。
「インド」というルーツに替わって立ち上ってきたのが、「どう生きるか」という普遍的な問題である。
『見知らぬ場所』には、愛する者の不在とそれに伴う喪失感が色濃く影を落とす。結びつき、遠ざかり、また再び巡り合う。人は、こんなにも他者と関わり合いながら生きているものなのか。
読んでいてどうにも居心地が悪くなったのは、他者との距離感をつかみ切れない人々の哀切が描かれているからだと思う。独り身となった父を引き取るかどうか悩む娘。昔恋心を抱いていた女性の結婚式に向かう男。道を逸れてゆく弟に胸を痛める姉。
高等教育を受け、社会で独り立ちするようになった登場人物たちが直面する問題は、どれも教科書などなく、自力で答えを見つけていかなければならない。さまざまな葛藤を経て、それぞれの道を選び取ってゆく姿に心打たれる作品集である。
5つの短篇と3つの連作中篇からなる、少し変わった構成の本書。
短篇集『停電の夜に』、長篇『その名にちなんで』と読んできたが、本書でラヒリは新たな段階へとステップアップしている。その進化を感じることのできる一冊だ。第4回フランク・オコナー国際短篇賞受賞作。[Amazon]
アメリカ:小川高義・翻訳
Unaccustomed Earth: Stories (Vintage Contemporaries)
Jhumpa Lahiri




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