『モンテ・クリスト伯(全7巻)』アレクサンドル・デュマ
「ドラマティックな小説」で私が真っ先に思い浮かぶのが、この『モンテ・クリスト伯』である。
夢と希望に満ちあふれていた青年ダンテスが、嫉妬によって一気に幸福の絶頂から奈落の底へ引きずり落とされる。無実の罪で投獄されること、14年。孤島の牢獄でひとりの師を得、あらゆる知識と莫大な財宝を授かった主人公は脱獄し、自分を陥れた人間にひとりずつ復讐してゆく。
これほど波乱に富み、心躍る物語はそうそうない。後年の作品に多かれ少なかれ影響を与えた、復讐物語の古典的名作である。
19世紀初頭の、激動のフランスを背景に展開される物語。なによりこの舞台設定に、デュマのストーリーテラーとしてのうまさを感じる。幸せな生活から孤島へ投獄されるダンテスと、流刑地エルバ島から一時的に権力奪還を果たすナポレオンの姿とが、あたかもシンメトリーをなすように描かれた、印象的な幕開けだ。
以前、深夜に放送していた映画をたまたま観たことがあるのだが、『モンテ~』を二時間でまとめてみた、というだけのつまらないものだった。
私はこの物語の最大の魅力は、ダンテスが着実かつ最も相手にダメージを与える方法で復讐を実行してゆく過程にあると思っている。持てる知恵と金と時間を惜しみなく使ってじわじわ相手を追いつめてゆく様は、バラエティーに富んだ内容もさることながら、その歪んだ執念にダンテスの受けた苦悩と絶望の大きさを感じ、胸が熱くなってしまうのである。
「わたしは相手から与えられたのと同じような苦痛を与えてやりたいと思うのです。(第3巻P.14)」という独自の哲学で突き進むダンテスはしかし、純粋な若者たちや彼を慕う女性、かつての婚約者との交流を通して、少しずつ自分の行動に疑問を抱くように。冷酷な復讐心と良心の狭間で揺れ動く姿からは、人のぬくもりを誰よりも強く求めるダンテスの切実な思いが浮かび上がってくる。
ちなみに、宝の隠し場所であり、彼が名乗ることになる「モンテ・クリスト」島は、「キリストの山」という意味がある。神に替わって復讐することを誓ったダンテスは、神の名を拠りどころにすることで自分自身を納得させていた部分があったのだろう。いわばこの名前は、彼の迷いの象徴なのである。
『岩窟王』として児童書で親しんだ人は多いだろうが、ここは是非、岩波文庫(全7巻)で読んでみてほしい。抄訳やあらすじでは分からないおもしろさがある。ただ、50年近く経っているので、訳文の古さ、とくに会話文の硬さは否めない。この作品こそ、新訳を出してほしいものである。
方向性はともかく、地獄の苦しみを味わった主人公が、不屈の意志と努力で這い上がってゆく姿に感銘を受ける『モンテ・クリスト伯』。ラストの「きわめて大きな不幸を経験したもののみ、きわめて大きな幸福を感じることができるのです。(第7巻P.364) 」は、いつまでも心に刻んでおきたい言葉である。[Amazon]
フランス:山内義雄・翻訳



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