『少年時代』トルストイ
最愛の母親の死とともに、幸福な幼年時代は終わりを告げ、新しい時代―少年時代が始まった。『幼年時代』に続く、トルストイの自伝的小説第二段。
本書では、思春期を迎えた主人公が描かれている。日本でいえば中学生にあたる年齢だろうか。幼い頃持っていた無邪気で快活な心はいくぶん影を潜めている。
「突然物の見方ががらりと変わり、まるで今まで見て来たいろんな物がくるりと向きを変えて、それまで知らなかった別の側面を呈示するようになる」という精神的変化が生まれた少年時代。主人公は、家族中心の幼年時代とは異なり、外側に広がる世界、なかんずく「他者」というものを強く意識するようになる。
思いがけず垣間見た大人の世界、異性への意識、自負心や思想的探究心の芽生え。多感な時期を過ごしながら、少しずつ成長してゆく少年の姿を瑞々しい筆致で捉えた一冊である。
叶うことなら、十代に戻ってこの作品を読み直したいものだ。
もちろん、いま読んでも感銘を受ける作品ではあるが、やはりここに書かれた言葉が素直に心に響くのは、主人公と同じ世代の読者だと思う。
後年の、哲学的なトルストイ作品が頭にあるからか、予習をさぼり、家庭教師に反抗し、女中たちの会話を盗み聞きし、父親の言いつけを守らない主人公のダメっぷりは、意外だった。ああ、トルストイも悩める少年だったんだな、と思うとぐっと親しみが湧いてくるから不思議である。
自分にはなんだってできる、と根拠のない自信を膨らませたかと思えば、未来がものすごく暗いものに見えて自暴自棄に陥る。そんな不安定な時期の心理を見事に描き出した『少年時代』。
同世代の子どもたちは今抱えている鬱屈した思いを、大人たちはかつての自分の姿を、自然と重ね合わせてしまう一冊である。[Amazon]
ロシア:北御門二郎・翻訳



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