『虎よ、虎よ!』アルフレッド・ベスター

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)今年は食わず嫌いしていたSFを読もう、と思い立ち、まず手に取った一冊なのだが、むっとするような熱気に圧倒された。とても50年前に書かれたとは思えない新鮮さである。

〈ジョウント〉と呼ばれるテレポーテーションによって、飛躍的に変貌を遂げた25世紀が舞台。
一瞬でどこでも好きなところへ行ける―。そんな能力があればさぞかし便利だろう、と無精の私は思うのだが、かえって治安が乱れ、惑星間戦争まで引き起こしてしまうから皮肉なものである。
科学も経済も政治も、本来人々の幸福のために資するものなのに、いつしかそれ自体が目的になっている。こういった本末転倒は、なにも小説の中だけの話ではない。
そんな世界を背景に、復讐に燃えるひとりの男が登場する。彼、ガリヴァー・フォイルは、難破した宇宙船で瀕死の状態にあった時、通りがかった宇宙船ヴォーガに見捨てられ、絶望の中から這い上がってきたのだった。

本書は、『モンテ・クリスト伯』をベースにした復讐譚である。種々雑多なSFアイデアが盛り込まれているが、なにより主人公フォイルの(ねちっこいぐらいの)執念が強烈な印象を残す作品だ。
彼の燃える情念は時空を越え、文字通りあらゆるものを焼き尽くす。復讐物語というのは、どういう結末にもっていくかが気になるところだが、この作品のラストは圧巻。なるほど、そういうことか、と腑に落ちる一方で、フォイルの火の吐くような叫びに目が覚める思いがするのである。

「諸君はブタだ。ブタみたいに阿呆だ。おれのいいたいことはそれだけだ。諸君は自分のなかに貴重なものを持っている。それなのにほんのわずかしか使わないのだ。諸君、聞いているか?諸君は天才を持っているのに阿呆なことしか考えない。精神を持ちながら空虚を感じている。諸君の全部がだ。諸君のことごとくがだ・・・・・」(P.429)

貧民街出身のごく平凡な男が不屈の意志をもってして、異様な虎の刺青をした容貌さながら野獣と化し、最後に本物の“虎”になる。
作者は「奇形的人間」という表現を用いているが、与えられることや自分の頭で考えないことに慣れていた大衆の中でひとり目覚めた彼は、きわめて異色の存在なのだ。
復讐に燃えるフォイルの獣性をクローズアップしつつ、戦争にひた走る人間の愚かさをも喝破した一冊。[Amazon]

アメリカ:中田耕治・翻訳

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