『エマ(上・下)』ジェーン・オースティン

オースティンの小説の何がおもしろいって、卓越した人間観察力と、皮肉の効いた(少しいじわるな)ユーモアにあると思う。
主人公を取り巻く、さまざまな人間模様。ごくありふれた、どこにでも転がっていそうな日常の出来事が、彼女の手にかかるとキラキラと輝き始めるから不思議だ。
『エマ』は、とある田舎の村を舞台に、エマという女性の目を通して彼女の周辺の人々を描いた、きわめてスケールの小さな物語である。
ストーリー展開のおもしろさ、という点では、『高慢と偏見』の方に分がある。エマ視点で展開していく辛辣な人間分析が、この作品の魅力なのだ。
お金持ちで、美人で聡明なエマ・ウッドハウス。
21年生きてきて、不幸や悩みごととはほぼ無縁だったというのだから羨ましい。彼女は生来の天真爛漫さと姉御肌の気質でもって、あれこれ他人の世話を焼く。とはいえ、そこは世間知らずのお嬢様。よかれと思って男女の仲を取り持とうとするのだが、いちいち裏目に出てしまう。
すべてを分かったようでいて、じつは肝心なことが見えていない未熟なエマ。心の目を曇らせてしまうものとして作者が指摘するのは、虚栄心と傲慢さである。
作者をして、「わたし以外には誰も好きにならないような女」と言わしめたヒロイン。
たしかに、自己愛が強く浅はかなところは、ちょっと受け入れ難い。それでも憎めないのは、情があり過ちを素直に認める良さだけではなく、そこに自分の姿、ひいては人間の不完全さというものを見てしまうからかもしれない。そもそも、自分の心すら当てにならないのに他人を思い通りにするなんて、どだい無理な話なのである。
19世紀イギリスののどかな村を背景に、勘違いから生まれるちぐはぐさと、目まぐるしく変化するエマの心理を見事に捉えた小説・『エマ』。好みの問題もあるが、これがオースティン6篇の小説のうち、最高傑作と評される所以なのだろう。
それにつけても、登場人物(とくに女性)のよく喋ること。
この作品自体、エマの自問自答で成り立っているとも言えるが、ミス・ベイツのお喋りはすさまじいものがある。ひとたび口を開くや否や、余裕で1ページ2ページ埋め尽くす。作中の聴き手のうんざり感を、ありがたくも体感できる、という仕掛け。
この物語からお喋りを取ったら、気の抜けたビールみたいになるんだろうな、多分。
イギリス:工藤政司・翻訳
エマ [DVD]
![エマ [DVD]](http://images-jp.amazon.com/images/P/B0002L4CQ0.09.TZZZZZZZ.jpg)
ちなみに、わたしが観たのは、このグウィネス・パルトロウ版「エマ」。
でも、まったく思い出せない~。ときたま自分の脳みそに不安を覚える。

![ジェイン・オースティン・コレクション エマ [DVD]](http://images-jp.amazon.com/images/P/B001CMJAEC.09.TZZZZZZZ.jpg)


コメントはまだありません。