『クロニクル千古の闇5 復讐の誓い』ミシェル・ペイヴァー
6巻シリーズの第5巻。
このシリーズ、毎回冒頭にインパクトのある場面をもってきて、その勢いで一気に物語を展開していくのだが、今回はのっけから血の匂いと憎悪が立ち込める、不穏な幕開けである。思い切りがいいというか、トラク、レン、ウルフ以外のキャラクターにはずいぶん冷たいというか、このあたり、西洋人と東洋人の感覚の違いなのだろうか。
ただ、出だしの強烈さの割には、ストーリーそのものは平板な印象を受けた。
些細な諍いがもとで友達を〈魂食らい〉に殺されたトラクの復讐がメインとしてあり、そこに氏族同士の争いやトラクの出生の秘密が〈深い森〉を舞台に絡み合う本作。太古の人びとの暮らしぶりや自然描写など、細部まで生き生きと活写されているのは毎度ながら読ませるが、肝心の内容をトラクたちと〈魂食らい〉の追走劇で引っ張るというのも、ちょっと芸がない。
おそらく物足りなく感じてしまう最大の原因は、当の〈魂食らい〉シアジが、トラクの闘う相手として役不足だからだろう。
これまでこのシリーズを読み続けてきた者としては、後にワシミミズク族のイオストラという強大な力を持つ〈魂食らい〉が控えているのを知っている。大将不在の対決なものだから、どうしたって最終巻の前哨戦、といった雰囲気が漂う。やけにあっさりとしたラストも、あれ以上話を広げようがなかったと考えれば腑に落ちる。
前作『追放されしもの』では、闇の恐怖や孤独といったものを強く感じさせたが、本書は、その暗闇に禍々しく燃えあがる憎悪と狂気の炎がイメージとして浮かび上がる一冊である。
復讐に我を忘れたトラクと、無知ゆえに争い合う氏族たち。どちらも「大切なものが見えなくなっている」という意味では同じ。そんな鬱蒼とした心の〈深い森〉から抜け出すにはどうすればいいのか―。
ここでは、ウルフの振る舞いがひとつの答えを提示しているように思う。
動物好きだからという訳ではないが、この作品がぴりりと引き締まっているのは、魅力的なウルフの存在に依るところが大きい。狼の素朴な疑問という形で語られる人間たちの行動の不可解さは、すっと読み手に冷静な視点をもたらしてくれる。
今回ウルフがアイデンティティに苦悩する場面には、ずっこけた。トラクでなくとも、「知ってると思ってたよ」である。
さて、頼もしくなったウルフは最終巻でどんな役割を果たすのだろうか。ああ、早く続きが読みたい。[Amazon]
Oathbreaker (Chronicles of Ancient Darkness)
Michelle Paver




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