『アーサー王ここに眠る』フィリップ・リーヴ
視点を変えてものごとを見るおもしろさを堪能できる、西洋歴史ファンタジーの佳作。
アーサー王ここに眠る
- フィリップ・リーヴ
- 東京創元社
- 2625円
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書評
「アーサー王ここに眠る」というタイトルだが、主人公はかの有名な英雄ではなく、孤児の少女だ。
グウィナという名の少女は、戦乱の中からアーサーお抱えの吟遊詩人ミルディンに拾われ、図らずもアーサー王伝説が生み出されていく現場に立ち会うこととなる。つまり、内側から見たアーサー王物語である。
歴史上の人物を題材にした物語というのは、伝説の英雄として謳い上げるか、虚飾をはぎ取って実像を考察するか、の大きくふたつに分けられるが、本書は後者。このスタンスを取ると都合上どうしても、トルストイ『戦争と平和』のナポレオン像のように、逆にその人物を矮小化させてしまいがちなのだが、皮肉な見方に慣れた者にとっては肌に合う。
グウィナの目から語られるアーサーは、天に選ばれた賢君などではなく、支配欲旺盛な粗暴な男に過ぎない。そんな彼が、一体どうして伝説の王と語り継がれるようになったのか。そこに、この作品の主眼がある。
〈熊〉と呼ばれる猛々しい男が、吟遊詩人の紡ぎ出す物語の力を借りて、勇敢で気高く聡明で、皆に愛される英雄と生まれ変わる。
権力者が自分に都合の良いイメージを作り出すことはよくあるが、受け取る側の人びとも美しい物語(伝説)を求めているものなのだ、という作者の指摘は説得力があって妙に納得させられた。
そう、「人間ってものは物語が好きなんだ」。そして、この作品をおもしろい、と思っている私もまた、物語の魅力に抗えない一人なのだろう。
実像と虚像を巧みに織り交ぜながら、戦乱の世を生きる人びとの悲喜こもごもを掬い上げた『アーサー王ここに眠る』。
そもそも、ここで描かれているアーサーの姿自体、フィリップ・リーヴの“創作”であることを忘れてはいけない。冒頭にも書いたが、本書のおもしろさは視点を変えて見えるさまざまな世界を味わえるところにあると思う。
現実の世界。物語の世界。少女から少年に扮するグウィナ。反対に娘として育てられてきた少年ペレドゥル。いくつもの視点が乱反射して、切なく愛しい情景を見せてくれる一冊である。やはり、カーネギー賞受賞作にはずれはない。[Amazon]
イギリス:井辻朱美・翻訳
Here Lies Arthur
Philip Reeve

※本書は、本が好き!経由で献本していただきました。



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