『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下)』スティーグ・ラーソン

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 下スウェーデンといえば、イケア、H&M、ボルボ・・・。
これからはその中に、スティーグ・ラーソンの小説『ミレニアム』を加えることになるだろう。ミステリを敬遠しがちな私が再読してしまった、超一級のエンターテインメントである。

この作品の切り口はいくつかあるだろうが、やはり謎解きのおもしろさが第一に挙げられる。
孤島で忽然と姿を消した少女の身に、一体何があったのか。殺されたのか。だとすれば誰が?
連続殺人、暗号解読、みたて殺人といったミステリにつきものの趣向をふんだんに凝らし、読み手をぐいぐいと引き込んでいく。上下巻あわせて800ページ強のボリュームも、まったく苦にならないほどに。
なにしろこの事件、死体すら発見されていないし、36年もの時が経っている。捜査に圧倒的に不利な状況から、どうやって謎を解き明かしていくのか。現実的にはあんなに都合よく手がかりに辿り着けないだろうが、その発見から畳み掛けるように核心へと迫っていく過程がスリリングで読み応えがある。

また、真実を追及する姿勢と連動するが、これは基底部に著者のジャーナリストとしての血が脈打った、骨太の問題作でもある。読み返してとりわけ胸を打つのは、全篇にみなぎる不屈のジャーナリズム精神だ。
物語は、雑誌記者ミカエルが、大物実業家の不正追及に挑んだものの逆に名誉毀損で返り討ちに遭う場面から幕を開ける。屈辱に満ちた敗北。ジャーナリストとしての信用を失い窮地に立たされた主人公が、過去の少女失踪事件に関わることで反撃の機会を狙う。そこには、「正義は勝つ」という明確なメッセージが込められているのである。
企業倫理や女性への暴力、人種差別など、人間性を否定するあらゆる悪に、著者は容赦なく斬り込んでいく。福祉国家スウェーデンの抱える闇は、思っている以上に深刻なのかもしれない。

社会悪にメスを入れた作品は、理屈っぽくなり過ぎてともすればストーリーの勢いを削ぎかねないが、本作は終始ドラマ性を失うことなく上質のエンターテインメントに仕上がっているのがすごい。
それは、主人公二人の魅力に拠るところが大きいと思う。物腰柔らかで正義感の強いジャーナリスト・ミカエルと、素行に問題はあるが調査員としての腕は一流のリスベット。とりわけ、女性版ハードボイルドとでもいうべきリスベットの強烈な個性がなければ、凡作に終わっていたことだろう。

『ミレニアム』は、この「ドラゴン・タトゥーの女」、続く「火と戯れる女」「眠れる女と狂卓の騎士」の三部作からなる。一話完結だが、読み進めていくにつれて謎に包まれたリスベットの過去が明らかになっていくので、全部合わせてひとつの物語として読んでもおもしろい。
著者の急逝によって、第四部・第五部が幻となってしまったのがほんとうに残念である。[Amazon] [Amazon]

スウェーデン:ヘレンハルメ美穂/岩澤雅利・翻訳

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  1. 確かにこの作品は良いですね。私はまだミレニアム1しか読んでいないんですが、2,3も手配中で手に入ったら是非にと思っています。
    作者のラーソンが亡くなったというのが残念ですが、もう無いと思うと余計に作品に思いがつのります。
    2,3を読む前に、ぐらんぼんさんのように再読してみようかなと思いました。
    (といっても読みたい本が一杯でその中でおぼれているんで中々ですが)

    • >west32さん

      理屈抜きにおもしろいですよね。
      本格ミステリ読みには、トリックが物足りないかもしれませんが。

      >もう無いと思うと余計に作品に思いがつのります。
      絶版本を無性に手に入れたくなる気持ちと似てると思います。

      わたしは、1、2ときてまた1に戻って読み返すという、変則的な読書をしてしまいました。
      読んでる間は気にならないのですが、積んでみるとけっこうなボリュームですね。
      続きを早く知りたいんですけど、この愉しみが終わってしまうのは寂しいような…。

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