カテゴリー : 海外文学

『神樹』鄭義

神樹すさまじい一冊である。
樹齢数千年の〈神樹〉の突然の開花から始まる物語は、近代中国の歴史と過酷な運命に翻弄されてきた民衆の姿を鮮明に映し出す。もっとも、「鮮明に」とは、上品過ぎる表現かもしれない。ここで描かれる情景はあまりにも生々しく、いまにも血と涙が流れ出してきそうなのだから。

北京五輪の開会式で繰り広げられた、中国五千年の歴史絵巻が記憶に新しい。文字の発展や大航海の始まりなど、あちらが中国の輝かしい歴史だとすれば、こちらはいわば影の側面を描いたものといえるだろう。
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『悲しみよこんにちは』フランソワーズ・サガン

悲しみよこんにちは (新潮文庫)読み終えたそばから読み返したくなる小説である。
ラストと冒頭で語られる「悲しみ」という言葉を、つき合わせてみたくて。

南仏の海辺を舞台に、若さゆえの無知と残酷さ、愛と陰謀を描き出した『悲しみよこんにちは』は、なんといってもそのしゃれたタイトルが印象的である。これは、ポール・エリュアールの詩の一節から取ったものだが、いまや出典元より有名だ。
好きな詩の一節を拝借、というのは文学少女なら一度は考えそうなもの。ただ、この言葉を完全に自分のもの(世界)にしているところに、センスを含めて作者の並々ならぬ力量を感じる。
観念の世界で生きていた感受性の強い少女が、生身の悲しみを知る。その感情を受け入れるに至ったひと夏を描いたのが、本書だ。
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『ルルージュ事件』エミール・ガボリオ

ルルージュ事件「初」とか「新」とか「限定」といった謳い文句にめっぽう弱い。
さて、本書。「世界初の長篇ミステリ」である。普段ミステリをほとんど読まない私でも、これは食指が動くというもの。

短篇ミステリの記念碑的作品は、エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』。そして、長篇ミステリとして初めて産声をあげたのが、1866年に発表されたこの『ルルージュ事件』なのである。
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『アルトゥーロの島/モンテ・フェルモの丘の家』エルサ・モランテ/ナタリア・ギンズブルグ

アルトゥーロの島/モンテ・フェルモの丘の家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-12)同時代にイタリアで生まれ、ファシズムの嵐をくぐり抜けてきた女性作家。
歩みこそ似通っているものの、題材も作風もまるで異なる収録作品である。
他人と交わらず、島で空想の世界に浸る繊細な少年を描いたエルサ・モランテの「アルトゥーロの島」と、逡巡しながら生きる大人たちの姿を書簡形式で浮かび上がらせたナタリア・ギンズブルグの「モンテ・フェルモの丘の家」
過去を回想する少年の独白で綴られた前者が、感傷的で神話めいた色合いを帯びているのに対し、後者は登場人物が多い上にそれぞれの人間が遠慮なく声(ここでは手紙だが)をあげているからか、にぎやかでぐっと世俗的である。
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『アフリカ農場物語(上・下)』オリーヴ・シュライナー

アフリカ農場物語〈上〉 (岩波文庫)アフリカ農場物語〈下〉 (岩波文庫)偉大な文学作品は、人生の真理を突いているものである。そうでなければ、文化や時代を超えて読み手の心を打つことはないだろう。

『アフリカ農場物語』は、南アフリカのある農場を舞台に人間と自然の営みを描きながら、「いかに生きるべきか」ということを真摯に問うた作品である。
乾燥した赤茶けた大地(カルー)、点在する小山(コピ)、低木の茂み(ブッシュ)。石の間からあちらこちらに顔を覗かせる草や多肉植物。オリーヴ・シュライナーは、南アフリカの美しい自然に育まれながら思索にふけっていたのだろうか。
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