カテゴリー : ア行の作家

『切羽へ』井上荒野

切羽へ伊坂幸太郎の選考対象辞退や、初の中国人芥川賞作家誕生の方に注目が集まって、直木賞受賞作なのになぜか影が薄い。内容も地味なので、直木賞という看板がなければ純文学好きの人ぐらいしか読まないような気がする。

だが、良い小説だ。
微妙なバランスで成立している夫婦関係、どうしようもなく惹かれてしまう心の不思議、思いを秘めた男女の恋愛模様。描かれる情景は静かで穏やかなのに、日常に潜む恐ろしさを覗いてしまったようで、ざわざわと心かき乱される一冊である。
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『ヴィヴァーチェ 紅色のエイ』あさのあつこ

ヴィヴァーチェ  紅色のエイ (銀のさじ)・・・続くのか!
ほとんど予備知識のないまま読み始めたので、本編と関係のないところでびっくりしてしまった。それにしても、一体何巻で完結するのだろう。
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『夜の桃』石田衣良

夜の桃期待しすぎたのがいけなかったのかもしれない。
たまたま観た俳句番組の中で、「いま、西東三鬼の俳句から取った『夜の桃』という作品を書いています」と作者が語っていたときから楽しみに待っていたのだ。
それなのに、なんて美しく官能的に性愛を描く男性作家なのだろう、と衝撃を受けた『娼年』のような冴えも、命を燃やし尽くすような恋愛を描いた『眠れぬ真珠』のような情熱も、この作品には感じられなかった。
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『光の指で触れよ』池澤夏樹

光の指で触れよ環境問題を考えるということは、つまるところ、生き方を根本から見直すことなのだと思う。
近年、意識の高まりにともなって家庭や企業でさまざまなエコが試みられているが、どれも「塵も積もれば・・・」的なレベルを脱していないような気がしてならない。もちろん、些細なことでも、皆が日常的に行えば効果はあるだろう。
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『木洩れ日に泳ぐ魚』恩田陸

木洩れ日に泳ぐ魚マジックは、種が分かってしまうとつまらない。
「何か特別な力を持っているのではないか」とまで思ったものが、拍子抜けするほど単純な仕掛けであったことを知った時の、あの切ないような悔しいような気持ちはなんなのだろう。まさに、「知らなきゃ、よかった」である。
この「知らなきゃ、よかった」は、なにもマジックに限ったことではない。人生においても、真実を知らない方が幸せな時は多々ある。そもそも、真実を知ることがそれほど重要なことなのだろうか。そんな疑問を抱かせてくれるのが、本書である。
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『ウラナリ、さよなら』板橋雅弘

ウラナリ、さよなら (YA!ENTERTAINMENT)ウラナリシリーズ最終巻。
このシリーズを最初に読んだときは、こんな結末になるとは思いもしなかった。青春全開のヤングアダルト小説、と感じていたのだから。
前作と同じく本書でも、第一章で結末が明かされる。だから、予想外の展開に驚くことはなく、ハヤブサとサクラの高校一年生の秋から冬にかけての日々をしみじみと振り返っていく。これで二人を見るのはもう最後なんだな、と思うと感慨深いものがある。
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『獣の奏者(闘蛇編・王獣編)』上橋菜穂子

獣の奏者 I 闘蛇編獣の奏者 II 王獣編上橋菜穂子さんの作品は、「孤高」という言葉がよく似合う。
「守り人」シリーズの女用心棒・バルサ然り、『狐笛のかなた』の霊狐・野火然り、彼らは他人と分かち合うことのできないものを背負いながら、一人生きる。他人と群れず、自らの使命を果たすその姿は、気高く美しい。「孤独」だと湿っぽいが、「孤高」には全てを引き受ける強さがある。
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『サウスバウンド(上・下)』奥田英朗

サウスバウンド 上 (角川文庫 お 56-1)サウスバウンド 下 (角川文庫 お 56-2)とんでも精神科医”が活躍(?)する伊良部シリーズもそうだが、奥田英朗の描く人間は、世間の常識にとらわれない。自分独自の世界観を持って生きている。
本書に登場する上原一郎は、方向こそ伊良部とは違うけれど、他人の意見に左右されない、という点では本質的に同じだ。自分の信じる道を突き進み、関わった周囲の人間は彼が引き起こす面倒に巻き込まれてしまう。
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『塩の街』有川浩

塩の街ある日突然、日本各地に巨大な塩の結晶が飛来。その隕石の落下と時を同じくして人々が塩の柱と化す怪現象が起こる。「塩害」と名づけられたその現象によって、人口は大幅に減り、被害者の中には多数の政府要人が含まれていたことから、日本は事実上無政府状態となる。治安は乱れ、人々は塩化の恐怖を抱えながら暮らしている。
本書は、ひょんなことから一緒に暮らすこととなった航空自衛官の秋庭と、両親を亡くした女子高生・小笠原真奈の二人を中心に、塩害に覆われた世界で生きる人々の姿と世界の再生を描いた物語である。
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『ウラナリは泣かない』板橋雅弘

ウラナリは泣かない (YA! ENTERTAINMENT)「ウラナリ」シリーズ第4段の本書は、ラストシーンが冒頭にくるという、少し変わった構成になっている。しかも、かなり意味深な内容である。最終巻への「引き」は充分、といったところか。
本書は、高校生活にようやく慣れてきたハヤブサとサクラのひと夏を描いている。この巻は、ハヤブサをとことんいじめ抜くために書かれた、といってもいい一冊である。
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『頭のうちどころが悪かった熊の話』安東みきえ

頭のうちどころが悪かった熊の話タイトルに引かれて手に取った。熊が「頭を打った」のではなく、「うちどころの悪い」とは、一体どういうことなのか。
早速、ページをめくると、頭を押さえた熊のイラストが目に飛び込んでくる。どうやらこの熊は、頭をどこかでぶつけて記憶喪失になってしまったらしい。たったひとつ覚えているのは、自分が“レディベア”を探している、ということだけ。しかし、その“レディベア”が誰だったのかは、分からない。“レディベア”探しの旅に出た熊を待っていたものとは・・・。
するすると読みやすい物語である。しかも最後にはしっかりオチがついていて、にやりとさせられた。
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『ぼくのプリンときみのチョコ』後藤みわこ

ぼくのプリンときみのチョコ (YA!ENTERTAINMENT)少女マンガ風のかわいい表紙につられて手に取ると、児童書らしからぬ内容にぎょっとするかもしれない。ボーイズラブ的要素が入った作品なので、受け入れられない人は、とことんダメだろうな、と思う。その意味で、好みが分かれる一冊といえる。甘いタイトル自体、性に関する隠語なのだ。
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『ウラナリと春休みのしっぽ』板橋雅弘

ウラナリと春休みのしっぽ (YA! ENTERTAINMENT)3巻目となる本書は、前2作と雰囲気がガラリと変わっている。
これまでの2作はハヤブサが語り手だったのが、今回は章ごとに一人称が入れ替わるスタイルを取っている。代わりにクローズアップされるのが、サクラ。長野でのサクラの様子や、ハヤブサを通して間接的に見ていたサクラの胸の内がよく分かる作品となっている。サクラが本当はどんな子なのか知りたかった読者には、嬉しい一冊だ。
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『ウラナリ、北へ』板橋雅弘

ウラナリ、北へ (YA!ENTERTAINMENT)「ウラナリ」シリーズ第2段の本書は、前作から3ヵ月経った、ある秋の日から始まる。
高校受験を直前に控えたハヤブサとサクラは、受験勉強に忙しい。ハヤブサは、内部進学試験に合格しなければ、アサカゼたちと一緒にハンドボールすることができなくなるから必死だ。一方、サクラは、両親が東京への進学に難色を示していて、合格しても手放しで喜ぶことができない。
果たして、ハヤブサとサクラに春はやって来るのか?さまざまな思いを抱えながら、少しずつ大人になっていく二人の中学生を描いた作品。
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『チョコレートコスモス』恩田陸

チョコレートコスモス恩田陸は、読者を楽しませる術を心得ている作家だと思う。
さらりと書かれながらも、これから何が起こるのだろう、と期待させる導入部。少しずつ見えてくる登場人物たちの輪郭。一気に加速するストーリー展開と、手に汗握るクライマックス。まるで大きな波のうねりにのみこまたように翻弄され、息つく暇もない。
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『スープ・オペラ』阿川佐和子

スープ・オペラ主人公は、35歳の独身女性・ルイ。
母は出産後まもなく死に、父は男手一つで育てられないと、赤ん坊のルイを残して家を出たため、叔母の藤子に育てられた。ルイが〈トバちゃん〉と呼ぶ叔母もまた独身で、ずっと二人で暮らしていたが、叔母は新しくできた恋人と共に旅立ってしまう。一人残されたルイの家に、ひょんなことから初老の画家〈トニーさん〉と、若手編集者・康介が住み込むこととなり、奇妙な共同生活が始まる。
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『女にこそあれ次郎法師』梓澤要

女(おなご)にこそあれ次郎法師彦根三十五万石、徳川譜代筆頭として、幕末まで重き地位を占めた井伊家。
長きにわたる徳川政権を支えた井伊家は、決して、順風満帆なわけではなかった。井伊家が一度消滅したという事実を、本書を読んで初めて知った。
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『終末のフール』伊坂幸太郎

終末のフール小惑星が地球に衝突し、8年後、世界は滅亡する―。
舞台は、そんな衝撃的な報告がなされてから5年後の、仙台市北部にあるマンション・「ヒルズタウン」。
世界の滅亡に直面した人類にとって、もはや働いて金を得ることや、将来設計を考えることは何の意味も持たなくなった。町には犯罪がはびこり、人々の心は諦観の思いで満たされる。
本書は、秩序が崩壊し混沌とした世の中で、それぞれの“終末の過ごし方”を模索する、「ヒルズタウン」の人々の姿を描いている。
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『ウラナリ』板橋雅弘

ウラナリ (YA!ENTERTAINMENT)この「講談社YA!ENTERTAINMENT」は、時代小説からラブコメ、SF、ミステリーと、さまざまなテイストのヤングアダルト作品を紹介しており、以前から注目しているシリーズだ。軽いタッチの中にも、十代の少年少女たちの葛藤や苦悩といったものを描き出し、なかなか読み応えがあるのだ。
ウラナリは、「これぞ青春小説」といえる作品。親子関係、友情、勉強、クラブ活動、恋愛に悩みながら前へ進んでいく中学生の姿を、瑞々しく描いている。
本書を第1段としてシリーズ化されており、他に、『ウラナリ、北へ』『ウラナリと春休みのしっぽ』『ウラナリは泣かない』の3冊がある。(追記:『ウラナリ、さよなら』で完結)
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『ありふれた風景画』あさのあつこ

ありふれた風景画誰も本当の自分を分かってくれない。自分のことを理解して受け止めてほしい。けれど、本当の自分って何だろう?

十代の頃、一度はこんな風に思った人は、本書を読んで共感できるところがあるかもしれない。
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『中庭の出来事』恩田陸

中庭の出来事

  • 恩田陸
  • 新潮社
  • 1785円

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書評

演劇とミステリを融合した作品。
前作『チョコレートコスモス』では舞台にかける役者たちの内面が丹念に描かれたが、こちらは役者も芝居の歯車の一つでしかなく、主役は舞台そのものである。
この作品は、いくつもの物語が同時進行で語られ、重なり合って謎が謎を呼ぶ仕掛けとなっている。現実と虚構の世界が入り混じって最後まで先の読めないスリリングな展開に、混乱しながらも、一気に引き込まれていく。
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『眠れぬ真珠』石田衣良

眠れぬ真珠主に20代の男女の恋愛を描いた、『スローグッドバイ』、30代の『1ポンドの悲しみ』につづく(『愛がいない部屋』を除けば)恋愛小説が、本書である。ずばり、テーマは、大人の恋。
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